米国における規制の解説

米国において遺伝子組換え生物(生ワクチンを除く)の野外利用(野外試験および商業利用)に関わっているのは下記の法律である。
  • 連邦殺虫剤殺菌剤殺鼠剤法(Federal Insecticide, Fungicide, Rodenticide Act, FIFRA)
  • 有害物質規制法(Toxic Substance Control Act, TSCA)
  • 植物保護法(Plant Protection Act, PPA)

また、遺伝子組換え作物の食品としての利用は下記の法律の下に規制されている。
  • 連邦食品医薬品および化粧品法(Federal Food, Drug, and Cosmetic Act, FFDCA)

FIFRAの下での規制
FIFRAは農薬の利用と安全性の確保に関する法律であり、米国環境保護庁(Environmental Protection Agency, EPA)により所管されている。FIFRAは農薬の使用、販売、流通に先立って登録(registration)を受けるべきことを規定しており、登録に先立って一定の情報を提出して評価を受けなければならない。ただし、登録を受けていない農薬についても試験的使用許可(Experimental Use Permit, EUP)を得ることにより安全性データの取得等を目的として試験的使用を行うことができる。EUPは陸上使用される農薬については10エーカー、水中使用される農薬については1エーカー以上の使用について要求される。

遺伝子改変微生物農薬に対する規制
微生物を有効成分とする農薬、微生物農薬についても、当然のことながら、FIFRAの対象となる。遺伝子改変により農薬としての性質が変化または高まった遺伝子改変微生物農薬については、上記に加えさらに、すべての野外試験に先だって、届出(notification)を行うことが要求される。この規定はEUPに関する規則(40 CFR 172)のSubpart C「ある種の遺伝子改変微生物農薬の届出」(Notification for certain genetically modified microbial pesticides)に収載されている。

植物導入保護剤に対する規制
EPAは農薬成分を産生するように遺伝子操作した植物中の農薬成分を「植物導入保護剤(plant-incorporated protectant, PIP)と呼び、これもFIFRAの下で規制している。なお、性的和合性のある植物に由来するPIP等、幾つかの免除規定がある。植物導入保護剤に対する規定は「植物導入保護剤に対する手順と要件」(40 CFR 174)に収載されている。

TSCAの下での規制
TSCAは化学物質を規制する法律であり、その他の法律で規制されていない化学物質(微生物も含む)に対して広く網をかけている。TSCAの中心となっているのは、新規化学物質に対する規制(事前審査制度)であり、その他に、既存化学物質に対する重大新規使用規制等が規定されている。
他の法律で規制されない微生物(例えば微生物肥料や生物浄化用微生物)はTSCAの規制対象となる。TSCAの下では属を超えた遺伝子の組合せをもつ微生物を新規微生物としており、新規微生物を「微生物に対する報告要求および審査手続き」規則(Reporting requirements and review processes for microorganisms, 40 CFR 725)の下で規制している。新規微生物の商業目的の製造・輸入については、それに先だって届出が求められ、環境中に放出される微生物については、研究段階であっても究極の目的が商業利用である場合には、事前の届出が要求される。

PPAの下での規制
PPAは農務省の動植物検疫局(Animal and Plant Inspection Service, APHIS)により所管されている法律であり、植物保護を目的として、植物病害虫(plant pest)、天敵農薬(biological control organisms)、雑草等の移動を規制している。この法律の下で、組換えDNA技術により作製されたあるいは改変された生物あるいは製品であって植物病害虫の遺伝子を含むものあるいは植物病害虫であることが疑われるものの環境への導入が規制されている。遺伝子組換え植物の殆どが作製の途中で植物病害虫由来の遺伝子を含むようになるため、この規則「遺伝子操作により作製されたあるいは改変された生物あるいは製品であって植物病害虫であるものあるいは植物病害虫であることが疑われるものの環境への導入」(Introduction of organisms and products altered or produced through genetic engineering which are plant pests or which there is reason to believe are plant pests, 7 CFR 340)の対象となる。
この規則では、遺伝子改変植物等の環境導入に際して届出、あるいは許可の取得を求めており、届出あるいは許可の条件の下でしか野外利用することは許されない。従って、遺伝子改変植物等の商業化にあたっては、この規則からの免除(exemption)の請願(petition)を行うことになる。規則は届出、許可あるいは請願の手順等を規定している。

食品に対する規制
米国では食品(乳、牛肉、鶏肉、鶏卵を除く)はFFDCAの下に規制されている。FFDCAは食品医薬品局(Food Drug Administration, FDA)の食品応用栄養学センター(Center for Food Safety and Applied Nutrition, CFSAN)が主として所管しており、この法律の残留農薬に関する部分のみEPAが所管している。
CFSANは組換え作物由来食品の事前評価に係る規則を作成しておらず、開発企業が自主的に評価を行うためのガイドラインを1992年に発表している。CFSANは組換え食品の開発者に対し、上記ガイドラインに従って評価を行い、販売前にFDAとコンタクトをとり任意の協議を行うことを求めている。
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