図1 がん細胞の排除と発生にかかわる免疫機構
正常な細胞の遺伝子が傷つくことによりがん細胞が発生する.がん細胞が発生すると,はじめに自然免疫系が機能し,ナチュラルキラー細胞などによりがん細胞が破壊される.マクロファージあるいは樹状細胞は破壊されたがん細胞の細胞片を取り込み,がん抗原を分解しがん抗原ペプチドとして提示する.このがん抗原ペプチドにより不活性型のヘルパーT細胞あるいはキラーT細胞が活性化し,獲得免疫系によるがん細胞の排除が機能する.
[Download] [hs_figure id=1&image=/wordpress/wp-content/uploads/2015/04/Nishikawa-4.e005-Fig.1.png&caption=fig1-caption-text]
がん細胞はさまざまな免疫逃避機構をもち,そのなかには制御性T細胞や骨髄由来抑制細胞といった免疫抑制細胞のリクルートもふくまれる.制御性T細胞は抗原提示細胞の共刺激タンパク質の機能を低下させキラーT細胞を不活性化させる.骨髄由来抑制細胞はサイトカインあるいは細胞傷害タンパク質を産生しキラーT細胞の機能および生存を低下させる.抗がん免疫応答を担う免疫細胞とその抑制を担う免疫細胞の機能についてはまだ不明な点が多く,それらを解明することでより効果的ながん免疫療法の開発が可能になると思われる.
図2 CTLA-4の機能
(a)T細胞の活性化.T細胞はマクロファージや樹状細胞のMHC分子に提示された抗原ペプチドをT細胞受容体により認識しシグナルを伝達する.同時に,CD80あるいはCD86とCD28との相互作用によりCD28シグナルが伝達され,T細胞は活性化される.
(b)活性化T細胞の抑制.活性化したT細胞の表面にはCTLA-4が発現し,CD80あるいはCD86と相互作用する.CD80あるいはCD86との親和性はCD28よりもCTLA-4のほうが高いため,CTLA-4は優先的にCD80あるいはCD86と相互作用し,活性化T細胞はCTLA-4シグナルにより抑制される.
[Download] [hs_figure id=2&image=/wordpress/wp-content/uploads/2015/04/Nishikawa-4.e005-Fig.2.png&caption=fig2-caption-text]
CTLA-4はCD28とCD80あるいはCD86との相互作用を阻害すること,または,CD80あるいはCD86を細胞から奪うことにより免疫抑制機構を担うと考えられている.後者の場合,のちに述べる制御性T細胞(CTLA-4が恒常的に細胞の表面に発現している)が深く関与しており,CD80あるいはCD86を失った細胞はT細胞を活性化することができなくなる.そのほかの抑制機構としては,相互作用によるCTLA-4の下流のシグナルによる直接的な抑制がある.これまでの研究により,CTLA-4の細胞内ドメインに作用するいくつかのタンパク質が報告されているが,抑制機構を直接に担うタンパク質は確定されておらず,現在もその解明にむけた研究がなされている図3 抗CTLA-4抗体による抗腫瘍免疫応答の増強
(a)活性化T細胞に発現するCTLA-4に対する抗CTLA-4抗体の作用.活性化したT細胞に発現するCTLA-4と抗CTLA-4抗体とが結合することにより,CTLA-4とCD80あるいはCD86との相互作用は阻害され,活性化T細胞の抑制が解除される.
(b)制御性T細胞に対する抗CTLA-4抗体の作用.制御性T細胞は恒常的にCTLA-4を発現しており,そのCTLA-4と結合した抗CTLA-4抗体を介した抗体に依存性の細胞傷害活性により制御性T細胞が除去され,制御性T細胞による免疫抑制が解除される.
[Download] [hs_figure id=3&image=/wordpress/wp-content/uploads/2015/04/Nishikawa-4.e005-Fig.3.png&caption=fig3-caption-text]
イピリムマブの投与により抗腫瘍免疫応答は増強されるが,一方で,免疫活性を総体的に増強するために自己免疫疾患を発症することが報告されている.ある臨床試験においてはイピリムマブを投与した患者の60%に有害事象がみられ,その多くが皮膚あるいは消化管に関する自己免疫疾患であった図4 PD-1の機能および抗PD-1抗体の作用
(a)PD-1の機能.活性化T細胞の表面に発現するPD-1とがん細胞に発現するPD-L1あるいはPD-L2との相互作用により,活性化T細胞はPD-1シグナルを介し抑制される.
(b)抗PD-1抗体の作用.活性化T細胞に発現するPD-1と抗PD-1抗体とが結合することにより,PD-1とPD-L1あるいはPD-L2との相互作用は阻害され,PD-1シグナルによるT細胞の抑制が解除される.
[Download] [hs_figure id=4&image=/wordpress/wp-content/uploads/2015/04/Nishikawa-4.e005-Fig.4.png&caption=fig4-caption-text]
動物実験の結果,抗PD-1抗体あるいは抗PD-L1抗体の投与による抗腫瘍免疫応答の増強が確認されたことから,これらの抗体を用いたがん患者を対象とする臨床試験が開始され,一定の臨床効果が認められたとの報告がなされている図5 キメラ抗原受容体を発現させたT細胞の構造
がん細胞を認識する抗体の2つの抗原認識部位をつないだ受容体様ドメインに,CD3の細胞外ドメイン,細胞膜貫通ドメイン,細胞内ドメインを順に結合させ,このキメラ抗原受容体をT細胞において発現させる.
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