図1 間期の核における染色体の高次構造
(a)間期の核の内部では,それぞれの染色体は互いに混ざりあわず,染色体テリトリーとよばれる固有の領域に収まっている.
(b)染色体はインスレーター配列などに富んだ境界領域によりMbサイズの領域に仕切られており,これはトポロジカルドメインとよばれる.染色体の領域のあいだの相互作用はトポロジカルドメインの内部に制限されている.
(c)トポロジカルドメインの内部には多数のループ構造がみられる.これらの多くはエンハンサーやプロモーターの相互作用により形成されており,遺伝子発現に重要な構造と考えられている.
[Download] [hs_figure id=1&image=/wordpress/wp-content/uploads/2015/01/Muto-4.e002-Fig.1.png&caption=fig1-caption-text]
図2 コヒーシンおよびコヒーシンローダー
コヒーシンは4つのサブユニットからなるリング状の構造をもつ.複製された姉妹染色分体をリングの内部に束ねることにより,その接着を分裂期まで維持すると考えられている.コヒーシンのDNAとの結合にはコヒーシンローダーとよばれるNIPBL-MAU2複合体の機能が必要である.
[Download] [hs_figure id=2&image=/wordpress/wp-content/uploads/2015/01/Muto-4.e002-Fig.2.png&caption=fig2-caption-text]
図3 NIPBLおよびコヒーシンによる遺伝子の発現制御
(a)コヒーシンはCCCTC結合因子とともにインスレーター機能を発揮する.ループ構造の内部にある遺伝子は,その内部にある制御領域の影響により転写が制御される.一方,隣接する領域からの影響は制限され,転写制御の特異性が維持される.
(b)NIPBL,コヒーシン,メディエーター複合体は,エンハンサーとプロモーターとの長距離の相互作用の形成を支持し,転写の活性化に寄与する.
(c)発生に関与する遺伝子には,転写開始の直後にRNAポリメラーゼIIの伸長抑制(一時停止)の起こるものがみつかっているが,これにはDSIFやNELFなどの転写減衰因子が関与している.遺伝子発現を活性化する刺激により転写減衰因子やRNAポリメラーゼIIのC末端ドメイン(CTD)がリン酸化され,転写の活性化した状態へと推移する.ショウジョウバエにおいては,この伸長停止の解除におけるコヒーシンの関与が示されている.
(d)酵母においては,コヒーシンローダーScc2-Scc4複合体がSWI/SNFクロマチンリモデリング複合体とともにヌクレオソームのない領域の形成を促進し,転写制御に関与することが示されている.
[Download] [hs_figure id=3&image=/wordpress/wp-content/uploads/2015/01/Muto-4.e002-Fig.3.png&caption=fig3-caption-text]
こうした染色体における共局在や相互作用が明らかにされる一方,これらのタンパク質の役割は必ずしも重複していないことが示唆されている.コヒーシンの局在とCCCTC結合因子の局在はゲノムの広い領域において重複しているが,遺伝子発現や染色体の領域のあいだの相互作用におけるはたらきには違いが認められる.その機能差はトポロジカルドメインの形成においてとくに顕著で,どちらもトポロジカルドメインの境界部分に結合するにもかかわらず,境界の形成にはCCCTC結合因子のみが関与している図4 ゼブラフィッシュにおける肢芽の発生の制御
(a)ゼブラフィッシュの胸ビレの肢芽.外胚葉性頂堤からのFgfシグナルにより間葉系細胞の増殖が促進され肢芽が成長する.受精後42時間において,側方からみたところ.
(b)ゼブラフィッシュにおいて肢芽の発生にかかわる遺伝子カスケード.体節形成期において前方部の体節からのレチノイン酸シグナルにより肢芽の分化が誘導される.哺乳動物と同様に,間葉系細胞からのFgf10シグナルやShhシグナルにより外胚葉性頂堤における
fgf遺伝子の発現が誘導される.Nipblやメディエーター複合体は,おもに5’-
hoxd遺伝子の発現制御を介して肢芽の発生に関連するさまざまな遺伝子の発現を制御していると予想される.Nipblあるいはメディエーター複合体のサブユニットであるMed12をノックダウンした胚において影響される遺伝子を赤色で示した.
[Download] [hs_figure id=4&image=/wordpress/wp-content/uploads/2015/01/Muto-4.e002-Fig.4.png&caption=fig4-caption-text]
図5 NIPBLおよびメディエーター複合体によるhox遺伝子群の発現制御
(a)Nipblあるいはメディエーター複合体のサブユニットであるMed12をノックダウンした胚の肢芽における
hox遺伝子群の発現の変化.5’-
hox遺伝子の発現はすべて低下したのに対し,3’-
hox遺伝子の発現はすべて上昇した.灰色は未解析の遺伝子または発現のない遺伝子.
(b)NIPBLおよびメディエーター複合体による
hox遺伝子座におけるループ構造の形成の促進.体幹部の発現に特異的なエンハンサーはクラスターの内部にあるのに対し,肢芽に特異的なエンハンサーはクラスターの外部の遺伝子の密度の低い領域に存在し,ループ構造を介して
hox遺伝子群と長距離の相互作用をする.NIPBLやメディエーター複合体はループ構造の形成を介して肢芽に特異的な
hox遺伝子群の発現に寄与すると考えられる.長距離の相互作用を必要としないと考えられる体幹部における
hox遺伝子群の発現は,Nipblあるいはメディエーター複合体のサブユニットであるMed12をノックダウンした胚においては影響をうけない.
[Download] [hs_figure id=5&image=/wordpress/wp-content/uploads/2015/01/Muto-4.e002-Fig.5.png&caption=fig5-caption-text]
一方,