図1 多領域シークエンシング
(a)ひとりの患者の腫瘍の複数の部位から試料を得る.
(b)次世代シークエンサーによりおのおの部位の変異プロファイルを取得する.通常,すべての部位に共通したファウンダー変異と,共通しないプログレッサー変異が存在する.
(c)それらをもとに進化系統樹を推定する.
[Download] [hs_figure id=1&image=/wordpress/wp-content/uploads/2016/02/Miyano-5.e003-Fig.1.png&caption=fig1-caption-text]
また,腫瘍の単一の部位から得た試料を高深度シークエンシング(deep sequencing)することによっても腫瘍内不均一性の情報を取得できる(図2 高深度シークエンシング
(a)通常,腫瘍のひとつの部位からから得た試料にも,ゲノムの異なる複数の細胞が含まれる.
(b)正常な細胞,クローナルな変異をひとつもつクローン1,クローナルな変異をひとつおよびサブクローナルな変異をひとつもつクローン2が存在するとする.次世代シークエンサーにより,おのおのの変異が存在するゲノムの座標をカバーする十分な量のリードを取得することで,おのおのの細胞の混合比率を反映した変異のアレル頻度が取得される.逆にいえば,おのおのの変異のアレル頻度から腫瘍内不均一性についての情報を得ることができる.
[Download] [hs_figure id=2&image=/wordpress/wp-content/uploads/2016/02/Miyano-5.e003-Fig.2.png&caption=fig2-caption-text]
最近の研究においては,多領域シークエンシングと高深度シークエンシングのどちらかではなく,この2つのアプローチを組み合わせておのおのの部位における腫瘍内不均一性まで解析されている.たとえばこれまでに,肺がん図3 BEPモデル
(a)おのおのの細胞は
n個(この例では,10個)の遺伝子をもち,単位時間あたり確率
pで分裂し確率
qで死ぬとする.細胞が分裂する際,おのおのの遺伝子は変異率
rで変異し,
d個(この例では,4個)のドライバー遺伝子のうちのひとつが変異するごとに増殖速度
pが10
f倍ずつ増加するとする.
(b)このモデルに適当なパラメーター値をあたえて,遺伝子変異をもたない10個の正常な細胞を約10
5個になるまで2次元の空間において増殖させた際の時系列スナップショット.それぞれの色は同一の変異遺伝子をもつクローンを示す.
(c)3つの時点での腫瘍における変異プロファイル.上の複数の色のバンドは同一の変異遺伝子をもつクローン,左の青いバンドはドライバー遺伝子を示す.
[Download] [hs_figure id=3&image=/wordpress/wp-content/uploads/2016/02/Miyano-5.e003-Fig.3.png&caption=fig3-caption-text]
腫瘍内不均一性の生じる原理を探索するため,スーパーコンピューターによりさまざまなパラメーター値でBEPモデルによるシミュレーションを行うことにより,ゲノム解析から観察される広汎な腫瘍内不均一性が生じる条件を探索した.その結果,高い遺伝子変異率を仮定してがんの進化をシミュレーションし,さらに,図4 中立進化による治療抵抗性の獲得
中立進化により生じた無数のサブクローンのなかから,治療抵抗性のクローンが出現し,がんは再発にいたる.
[Download] [hs_figure id=4&image=/wordpress/wp-content/uploads/2016/02/Miyano-5.e003-Fig.4.png&caption=fig4-caption-text]
近年,治療抵抗性および感受性クローンを仮定したモデルを用いた数理的な研究により,抗がん剤の投薬の計画を調整することにより,がんの再発を遅延あるいは阻止させることのできる可能性が示されている図5 投薬の計画の調整によるがんの再発の阻止
(a)大用量の抗がん剤の投与により腫瘍を小さくしようとすると,がんは再発にいたる.
(b)治療感受性のクローンと治療抵抗性のクローンとをうまく競合させつつ腫瘍の成長を抑えられれば,患者の予後を伸ばせるかもしれない.
[Download] [hs_figure id=5&image=/wordpress/wp-content/uploads/2016/02/Miyano-5.e003-Fig.5.png&caption=fig5-caption-text]