図1 シロイヌナズナにおける花の発生
栄養成長期のメリステムは葉を形成し,花成を誘導したのちには側生のメリステムおよび花芽を形成する.花芽においては,ホメオティックタンパク質の組合せにより花器官の分化の方向が決定される.
[Download] [hs_figure id=1&image=/wordpress/wp-content/uploads/2014/12/Ito-3.e014-Fig.1.png&caption=fig1-caption-text]
図2 花成を制御する遺伝学的な経路
光周期依存経路,春化依存経路,自律的経路,ジベレリン依存経路のほか,温度受容性経路,加齢経路からシグナルが統合され,最終的にFT,SOC1,AP1,LFYといった転写因子の発現が誘導されて花成がひき起こされる.その上流には,花成の抑制タンパク質であり,自律的経路,春化依存経路,高温受容性経路からのシグナルの集約するFLCが機能している.FTは花成シグナルの統合タンパク質であり,葉で感受した光周期による花成誘導シグナルを茎頂に伝達する花成ホルモン(フロリゲン)の分子的な実体と考えられている.花成の抑制タンパク質FLC,花成の促進タンパク質SOC1,花メリステムの決定タンパク質AP1,花のホメオティックタンパク質であるAP1,AP3,PI,AGは,すべてMADSドメインタンパク質である.
[Download] [hs_figure id=2&image=/wordpress/wp-content/uploads/2014/12/Ito-3.e014-Fig.2.png&caption=fig2-caption-text]
環境からあるいは内生するシグナルをうけてはたらく花成経路は,複数の転写因子およびクロマチン制御タンパク質からなる遺伝子発現制御のカスケードとして理解されるようになった.シグナルの感受から花器官の分化の方向を決定する遺伝子の発現制御にいたる花のかたちづくりは,時間軸および空間的な配置にそった特異的な遺伝子の発現制御ネットワークによりもたらされると考えることができる.とくに,花成経路および花器官の分化の方向を決定するタンパク質としては,MADSドメインをもつ転写因子が主要な役割をはたしている図3 花の幹細胞を制御する3つの転写因子とその機能欠損型変異体の表現型
(a)WUS,AG,KNUは,それぞれ,ホメオドメイン,MADSドメインおよびKドメイン,ジンクフィンガードメインをもつ転写因子であり,幹細胞決定タンパク質,分化誘導タンパク質,転写抑制タンパク質として機能する.
(b)野生型の花は,外側から,がく片,花弁,雄しべ,雌しべをもつ.
wus変異体においては花器官の数が減少する一方,
ag変異体および
knu変異体においては花器官の数が増加する.
[Download] [hs_figure id=3&image=/wordpress/wp-content/uploads/2014/12/Ito-3.e014-Fig.3.png&caption=fig3-caption-text]
図4 KNU遺伝子の発現のタイミングは増殖と分化とのバランスの制御に重要である
通常は花発生ステージ6に発現する
KNU遺伝子が早期に発現すると,増殖と分化のバランスがくずれて花の幹細胞の活性が早期に停止してしまうため花器官の数が減少する.逆に,
KNU遺伝子の発現が遅れるとメリステムの異常な増殖の結果として花器官の数が増加する.
[Download] [hs_figure id=4&image=/wordpress/wp-content/uploads/2014/12/Ito-3.e014-Fig.4.png&caption=fig4-caption-text]
花の幹細胞の活性抑制のタイミングの制御においては,AGの直接のターゲット遺伝子である図5 AGによる細胞周期に依存的なヒストン修飾機構のモデル
KNU遺伝子の早期の発現はポリコームタンパク質により抑制されている.AGの発現が誘導されると,ポリコームタンパク質のリクルートに必要なポリコーム応答配列に競合的に結合しその活性を阻害する.これにより,細胞周期による時間のずれをともなう遺伝子発現の抑制状態の希釈をへて,
KNU遺伝子の発現が誘導される.
[Download] [hs_figure id=5&image=/wordpress/wp-content/uploads/2014/12/Ito-3.e014-Fig.5.png&caption=fig5-caption-text]
ポリコームタンパク質は発生の過程において,時間的および空間的に特異的な遺伝子発現の制御に重要な役割をはたす