図1 GPCRの分類とそれぞれのクラスの特徴
クラスAはN末端ならびにC末端にあるループが短い,または,そこにほかの構造ドメインをもたない.クラスBのN末端には100〜300残基のペプチドホルモン結合ドメインが,クラスCのN末端には300〜600残基のリガンド結合ドメインが存在する.また,クラスCは細胞内にあるC末端ループが長い.7本の膜貫通ヘリックスはおよそ25〜35残基からなり,それらの膜貫通ヘリックスを連結するループは,細胞外ループ(ECL1〜ECL3),および,細胞内ループ(ICL1〜ICL3)と名前がつけられている.
[Download] [hs_figure id=1&image=/wordpress/wp-content/uploads/2013/03/Hiroaki-2.e003-Fig.1.png&caption=fig1-caption-text]
ここでおもにとりあげるクラスA(ロドプシンファミリーともよばれる)は,N末端ならびにC末端にあるループが短い,または,そこにほかの構造ドメインをもたないタイプである.カテコールアミンや脂溶性の低分子リガンド(多くの神経伝達物質を含む),ペプチドホルモン(エンドセリンなど)を受容してシグナル伝達を行う.最初期に構造解析されたロドプシンは,それらのリガンドの代わりに光受容分子であるレチナールが共有結合により結合している.クラスAには,視覚や嗅覚などの感覚,神経伝達,ホメオスタシスの維持など,きわめて重要な生理機能にかかわるGPCRが数多く含まれている.
ここでは割愛するが,創薬の標的として注目されているカテゴリーとして,クラスB(セクレチン受容体ファミリーともよばれる)と,クラスC(代謝型グルタミン酸受容体ファミリーともよばれる)がある.クラスBは,N末端に100〜300アミノ酸残基とやや長い領域をもち,そこに約100アミノ酸残基のペプチドホルモン結合ドメイン(または,単に細胞外ドメインとよばれる)が存在し,セクレチンなどジスルフィド結合を含まないペプチドホルモンの刺激伝達を行う.クラスCは,N末端に約300アミノ酸残基とさらに長い領域をもち,そこにアミノ酸などに対するリガンド結合ドメインが存在する.クラスCの代表例は神経伝達に欠かせないグルタミン酸受容体である.おもしろいことに,クラスCのもつリガンド結合ドメインは真正細菌においても遺伝的に保存されており,ペリプラズムにおいてアミノ酸選択輸送などに機能するタンパク質のもつドメインと立体構造がきわめて類似している.
このほかに,Wntシグナル伝達系においてシグナルを受容する7回膜貫通型受容体Frizzledや,酵母のもつ接合因子受容体などを,それぞれ,さきに述べたものとは別のGPCRのファミリーとして分類することもあるが,現行のデータベースGPCRDBには収載されていない.
図2 Gタンパク質によるシグナル伝達機構とその立体構造
(a)Gタンパク質によるシグナル伝達機構.GDP結合型が不活性型,GTP結合型が活性型.リガンドがGPCRに結合するとGDPはGTPに変換され,αサブユニットとβγサブユニットがそれぞれGPCRから解離し,別個のエフェクター分子に作用してシグナルを伝達していく.
(b)GDP結合型Gタンパク質の結晶構造(PDB ID:
3AH8).緑色:αサブユニット,青色:βサブユニット,ピンク色:γサブユニット,オレンジ色:GDP.この構造はG
qタンパク質と阻害剤の複合体のかたちで解かれたものだが,ここでは阻害剤は省いている.
[Download] [hs_figure id=2&image=/wordpress/wp-content/uploads/2013/03/Hiroaki-2.e003-Fig.2.png&caption=fig2-caption-text]
GPCRの種類ならびにそれが発現している細胞により,GPCRと共役しているGタンパク質の種類も異なっている.それらはαサブユニットの配列により,G図3 クラスAのGPCRの構造の比較
(a)β
2アドレナリン受容体の細胞質側の領域(PDB ID:
2RH1).
(b)β
2アドレナリン受容体について不活性型と活性型との重ね合わせ.不活性型は紫色,PDB ID:
2RH1,インバースアゴニストはカラゾロール.活性型は水色,PDB ID:
3P0G,アゴニストはBI-167107.
(c)A
2Aアデノシン受容体について不活性型と活性型との重ね合わせ.不活性型は黄緑色,PDB ID:
3PWH,インバースアゴニストはZM241385.活性型は茶色,PDB ID:
3QAK,アゴニストはUK-432907.
(d)ヒスタミンH1受容体とCXCR4ケモカイン受容体との重ね合わせ.ヒスタミンH1受容体は茶色,PDB ID:
3RZE,アンタゴニストはドキセピン.CXCR4ケモカイン受容体は青色,PDB ID:
3ODU,アンタゴニストはIt1t.
(e)A
2Aアデノシン受容体について活性型と不活性型との重ね合わせ.活性型は茶色,PDB ID:
3QAK,アゴニストはUK-432907.不活性型は水色,PDB ID:
3PWH,インバースアゴニストはZM241385.
[Download] [hs_figure id=3&image=/wordpress/wp-content/uploads/2013/03/Hiroaki-2.e003-Fig.3.png&caption=fig3-caption-text]
また,同じGPCRでも結合しているリガンドが変わると膜貫通ヘリックスの位置と角度も変化しており,この変化こそが細胞外からのシグナルを細胞内へ伝える分子機構の鍵である.これまでに,アゴニストの結合した活性型と,アンタゴニストもしくはインバースアゴニストの結合した不活性型の両方の構造が決定されているのは,β図4 ニューロテンシン受容体の活性化の機構とリガンドとの結合部位
(a)ニューロテンシン受容体とニューロテンシンとの複合体における膜貫通ヘリックス(TM)の配置を,不活性型および活性型のロドプシンの立体構造と重ね合わせて比較した.重ね合わせにはTM1〜TM4とTM7を用い,TM5およびTM6の相対配置の変化がわかりやすくなるよう示した.灰色:不活性型のロドプシン(PDB ID:
1GZM),茶色:活性型のロドプシン(PDB ID:
3PQR),青色:ニューロテンシン受容体-ニューロテンシン複合体(PDB ID:
4GRV).ロドプシンでは受容体の活性化にともない,TM5およびTM6の位置が大きく移動していることがわかる.
(b)ニューロテンシン受容体とニューロテンシンとの複合体の構造.すでに明らかにされているGPCRのリガンド結合部位のおよその位置を示した.NTS
8-13:ニューロテンシン部分ペプチド(8〜13残基).
[Download] [hs_figure id=4&image=/wordpress/wp-content/uploads/2013/03/Hiroaki-2.e003-Fig.4.png&caption=fig4-caption-text]
この構造解析ではリガンドと結合していない状態のニューロテンシン受容体の立体構造は明らかにされていないため,リガンドとの結合の前後でどのような構造変化が起こるのか,その詳細は未知である.しかし,アゴニストとの結合により誘起されるコンホメーションの変化,すなわち,TM5やTM6が相対配置を変え,最終的にICL2およびICL3の立体構造の変化をひき起こす点は共通であった.しかし,リガンド結合部位の“深さ”の点では大きく異なっていた.ロドプシンにおける内在性リガンドである全図5 GPCRによるシグナル伝達機構
(a)β
2アドレナリン受容体とGタンパク質との複合体の結晶構造(PDB ID:
3SN6).緑色:αサブユニット,青色:βサブユニット,紫色:γサブユニット.β
2アドレナリン受容体(ピンク色)のN末端にはT4リゾチームが融合し,また,細胞内には抗体V
HHフラグメント(黄緑色)が結合している.
(b)β
2アドレナリン受容体とGタンパク質との複合体の結晶構造からGタンパク質のみを取り出した.ヌクレオチド結合部位は溶媒に露出している.
[Download] [hs_figure id=5&image=/wordpress/wp-content/uploads/2013/03/Hiroaki-2.e003-Fig.5.png&caption=fig5-caption-text]
著者プロフィール
天野 剛志(Takeshi Tenno)
略歴:2004年 愛媛大学大学院理工学研究科 修了,同年 横浜市立大学大学院総合理学研究科 研究員,2005年 京都大学大学院工学研究科 研究員,2007年 神戸大学大学院医学系研究科 特命助教,2011年 名古屋大学理学部 特任助教を経て,2012年より名古屋大学大学院創薬科学研究科 助教.
研究テーマ:構造生物学的なアプローチによる膜タンパク質のシグナル受容機構の解明,および,マルチドメインタンパク質のシグナル伝達機構の解明.
関心事:とくに,タンパク質の構造変化をともなうシグナル伝達機構およびシグナル受容機構に興味があります.調製の困難な組換えタンパク質の新規の調製法の開発にも励んでいます.
廣明 秀一(Hidekazu Hiroaki)
略歴:1992年 大阪大学院薬学研究科博士課程 修了,同年 日本ロシュ 研究所,1996年 生物分子工学研究所,2001年 横浜市立大学大学院総合理学研究科 助教授,2007年 神戸大学大学院医学系研究科 特命教授,2011年 名古屋大学理学部 教授を経て,2012年より名古屋大学大学院創薬科学研究科 教授.
研究テーマ:創薬を志向したタンパク質ドメインのNMR構造生物学.
関心事:マルチドメインタンパク質および天然変性タンパク質の構造動態と機能発現の機構に興味があります.研究オタクな大学院生を常時募集中.
研究室URL:
http://presat-vector.org/hiroaki-lab/
? 2013 天野剛志・廣明秀一 Licensed under