図1 原腸の形成における集団的な細胞運動と細胞極性の形成
(a)アフリカツメガエルにおける原腸の形成の過程(断面図).中軸中胚葉は先端中胚葉にひきつづき胚の内部に陥入し脊索を形成する.矢印は組織の相対的な移動の方向を示す.
(b)先端中胚葉は外胚葉の形成するフィブロネクチン層を集団的に前方に移動する.これにより,中軸中胚葉に引張力が発生する.
(c)収斂と伸長における中軸中胚葉の細胞の極性化および運動.単純な形態をもつ細胞が平面内細胞極性シグナルにより細胞極性を獲得し前後軸と垂直の方向に紡錘形に変化する.細長くなった細胞の両端に細胞突起が形成され,隣接する細胞を引きつけるように運動し内外の方向に相互入り込みが起こる.
(d)異なる組織の境界において起こる細胞運動とその制御機構.中軸中胚葉の細胞は隣接する体節細胞や表皮細胞と接触する位置にむかって微小管を伸長する.また,細胞内Ca
2+濃度の一過的な上昇が起こる.
[Download] [hs_figure id=1&image=/wordpress/wp-content/uploads/2015/04/Ueno-4.e006-Fig.1.png&caption=fig1-caption-text]
この細胞運動の原動力は,細胞の集団が外胚葉の内側を前方にむかって移動する“集団的な細胞の移動”にある.筆者らの最近の研究により,この移動する細胞集団は一様に移動する力を発揮しているのではなく,先端の一部のみが移動能をもち,後方の細胞集団を牽引していることがわかってきた(図2 ショウジョウバエの翅の上皮における平面内細胞極性シグナル
(a)確立された平面内細胞極性シグナルは将来に翅毛の生じる位置を遠位側に定める.この機構が翅の全体で起こり,翅において翅毛のむきがそろう.
(b)細胞における平面内細胞極性シグナルタンパク質の局在.Frizzled(Fz)は遠位側,Strabismus/Van Gogh(Vang)は近位側,Flamingo(Fmi)は遠位側と近位側の両方の頂端側に局在する.細胞内においては,Dishevelled(Dsh)およびDiego(Dgo)は遠位側,Prickle(Pk)は近位側において膜タンパク質と相互作用する.相互抑制機構などを介し遠近軸にそったタンパク質の分布に極性が生じる.
[Download] [hs_figure id=2&image=/wordpress/wp-content/uploads/2015/04/Ueno-4.e006-Fig.2.png&caption=fig2-caption-text]
筆者らは,収斂と伸長の制御機構を探るため,機能的な細胞極性の形成の指標として微小管の動態を観察した.EB1およびEB3は微小管のプラス端(伸長する端)に結合する性質をもつ.したがって,EB1あるいはEB3をGFPとの融合タンパク質にしてその動態を観察すると微小管の伸長の極性を知ることができる.生細胞イメージングによる観察の結果,微小管は脊索とその側方に位置する体節(将来は筋肉になる)との境界にむかって伸長することがわかった図3 神経管閉鎖における細胞運動
(a)アフリカツメガエルにおける神経管の形成の過程(断面図).原腸の形成ののちに背中側に形成された神経外胚葉(神経板)が正中線の側方側において1対のヒダ構造(神経褶)を形成し,そのあいだに神経溝を形成する.神経褶の端どうしが背中側で融合し管構造(神経管)が形成される.
(b)神経上皮細胞の頂底極性にそった細胞の形態形成と非神経外胚葉による組織非自律的な機構.頂底極性をもつ神経上皮細胞は,微小管の作用により頂底の方向に伸長したのち,1)アクトミオシンの活性化により頂端を収縮させる.また,組織非自律的な運動として,2)非神経外胚葉の移動による圧縮をうける.
[Download] [hs_figure id=3&image=/wordpress/wp-content/uploads/2015/04/Ueno-4.e006-Fig.3.png&caption=fig3-caption-text]
これまでの研究においてもっとも着目されてきたのは,神経板の内部で起こる形態形成である(図4 神経堤細胞の集団的な移動を制御する機構
(a)神経堤細胞の基本的な運動の様式.集団的な移動の過程において“接触による移動阻害”と“相互誘引”とをくり返す.
(b)接触による移動阻害.細胞どうしの接触部位では平面内細胞極性シグナルがRhoAを活性化してRacによる細胞突起の形成を阻害する.これにより,細胞は接触部位から離れる方向に極性化し移動する.
(c)相互誘引.神経堤細胞により産生されたC3aは近隣の同種の細胞に受容され,Racによる細胞突起の形成を活性化することにより細胞極性を逆転させる.これにより,神経堤細胞どうしは集合する.
(d)“chase and run”.腹側のプラコード細胞はSDF-1を放出しRacによる細胞突起の形成を介し神経堤細胞を誘引する.プラコード細胞と神経堤細胞とが接触すると接触面において接触による移動阻害が起こり,プラコード細胞は腹側へと移動する.これがくり返し起こることにより,異なる2つの細胞集団は集団的に腹側へと移動する.
[Download] [hs_figure id=4&image=/wordpress/wp-content/uploads/2015/04/Ueno-4.e006-Fig.4.png&caption=fig4-caption-text]
また一方で,神経提細胞は上皮間充織転換(epithelial-mesenchymal transition)により細胞接着が弱まり本来は散逸する傾向にあるが,補体C3aおよびその受容体C3a受容体が細胞どうしの密着度(まとまり)を生むことが見い出され,この現象は“相互誘引”(co-attraction)とよばれている