図1 古典的なエンドサイトーシス経路
分解経路は,細胞膜から取り込まれた物質が,初期エンドソーム,後期エンドソームを経由して,最終的にリソソームへと到達し分解される経路である.リサイクル経路には,細胞膜→初期エンドソーム→細胞膜(速いリサイクリング),あるいは,細胞膜→初期エンドソーム→リサイクリングエンドソーム→細胞膜(遅いリサイクリング),という2つの経路がある.
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分解経路をとおる代表的なタンパク質として,活性化した上皮成長因子受容体がある.細胞膜において上皮成長因子と結合した上皮成長因子受容体は,細胞質内の領域にユビキチンによる修飾をうけ,このユビキチンを認識するタンパク質により,後期エンドソーム(late endosome),ついで,リソソームへと輸送されることにより,最終的に分解をうける.この系は,活性化された増殖因子の受容体から増殖シグナルが出つづけることにより細胞が過増殖することを防ぐための重要な負の制御機構である.後期エンドソームは内部に多くの小胞をもつことから,多胞体(multivesicular body:MVB)とよばれることもある.また,細胞膜に結合していない可溶性の物質も分解経路をとおることが明らかになっている.その代表的な物質として,低密度リポタンパク質がある.低密度リポタンパク質は細胞膜に存在する低密度リポタンパク質受容体により捕捉され,初期エンドソームへと輸送される.初期エンドソームにおいて両者は解離し,低密度リポタンパク質受容体はリサイクル経路をとおり細胞膜へ,一方,遊離した低密度リポタンパク質は分解経路をとおりリソソームへと輸送されていく.低密度リポタンパク質は最終的に加水分解酵素により分解されて遊離のコレステロールを生じるが,これはコレステロール合成能をもたない末梢組織の細胞が外界からコレステロールを獲得する重要な手段である.
初期エンドソームから細胞膜へと物質をもどす経路は2つあり,初期エンドソームから細胞膜へと直接にもどる経路と,リサイクリングエンドソームを通過して細胞膜へともどる経路が知られている.前者を速いリサイクリング(fast recycling),後者を遅いリサイクリング(slow recycling)とよび区別することもある.リサイクリングエンドソームは多くの細胞において核の近縁部に存在し,その内部のpHは6.5と弱酸性である図2 初期エンドソームとゴルジ体とを結ぶ逆行性輸送経路
(a)逆行性輸送経路は,初期エンドソームからゴルジ体へとむかう物質の輸送経路である.これまで,初期エンドソームからゴルジ体へと直接にむかう経路であると理解されてきたが,最近になり,リサイクリングエンドソームを経由する必要のあるタンパク質が多く同定されてきている.Winglessの受容体であるWntlessがリサイクリングエンドソームを経由するかどうかは今後の検討課題である.
(b)evectin-2はリサイクリングエンドソームに局在し逆行性輸送経路を選択的に制御する.
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レトロマーは初期エンドソームに局在することなどから,逆行性輸送経路は初期エンドソームからゴルジ体へと直接にいたる経路と考えられてきた.しかしながら,近年,逆行性輸送経路により輸送されるいくつかの物質は,初期エンドソームからいちどリサイクリングエンドソームへと輸送され,ついで,ゴルジ体へと輸送されていることが明らかになってきた.コレラ毒素やシガ毒素などのタンパク質性の毒素は逆行性輸送経路を利用して細胞に侵入し,エンドソームを通過してゴルジ体あるいは小胞体,そしてさらに,細胞質へと輸送されることにより毒性を発揮する.リサイクリングエンドソームに局在するタンパク質evectin-2のノックダウンにより,コレラ毒素の輸送がリサイクリングエンドソームにおいて遅延し,ゴルジ体への到達が劇的にさまたげられること,また,逆行性輸送経路を利用してゴルジ体への局在を維持するタンパク質TGN46およびGP73の局在が完全に失われることが示された図3 ゴルジ体およびエンドソームにおけるリン脂質の分布
細胞膜,初期エンドソーム,ゴルジ体は,ホスファチジルイノシトール4,5-ビスリン酸,ホスファチジルイノシトール3,4,5-トリスリン酸,ホスファチジルイノシトール3-リン酸,ホスファチジルイノシトール4-リン酸などのイノシトールリン脂質を細胞質側に特異的に発現し,固有の機能をはたしている.リサイクリングエンドソームにはこれらのイノシトールリン脂質は検出されず,ホスファチジルセリンやスフィンゴミエリンが高く発現している.
PIP
2:ホスファチジルイノシトール4,5-ビスリン酸,PIP
3:ホスファチジルイノシトール3,4,5-トリスリン酸,PI(3)P:ホスファチジルイノシトール3-リン酸,PI(4)P:ホスファチジルイノシトール4-リン酸.
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図4 COS-1細胞におけるオルガネラの分布
リサイクリングエンドソームは球状のゴルジ体の内側の空間に位置し,さらに,リサイクリングエンドソームのしめる空間の中心部には微小管形成中心が存在する.初期エンドソーム,後期エンドソーム,リソソームなど,分解経路に関与するオルガネラは,ゴルジ体により排除される細胞質の空間に存在する.
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ゴルジ体のかたちづくる構造の内側の空間にさらにオルガネラが存在することは,リサイクリングエンドソームへのアクセスを考えるとたいへん奇異に思えるが,ゴルジ体の層板を貫通する穴が開いていて,そこを通過する微小管を利用することにより細胞質とゴルジ体の内部とのあいだで物質輸送の行われている可能性がある