図1 システム生物学のアプローチ
ひとくちにシステム生物学といっても,実験あるいは理論,トップダウン型あるいはボトムアップ型など,さまざまな方法論やアプローチがある.2000年代初頭にはこれらの研究は個別に行われていたが,その約10年後の現在,これらさまざまなアプローチは融合し高度になっている.
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細胞内シグナル伝達系のシステム生物学的な研究の目的のひとつは,複雑なシグナルのネットワークから細胞の応答を“予測”することである.この背景には,1990年代後半から市販されるようになった分子標的薬,たとえば,EGF(ErbB1)受容体の標的薬剤であるゲフィチニブ(肺がんを対象とする),Bcr-Ablの標的薬剤であるイマチニブ(慢性骨髄性白血病を対象とする),ErbB2の標的薬剤であるトラスツズマブ(乳がんを対象とする),などの登場がある図2 シグナルの冗長性と特異性
(a)シグナルタンパク質のモジュール構造.シグナル伝達の冗長性と協同性はシグナルタンパク質のマルチドメイン性に由来する.
(b)ネットワークモチーフとシグナルタンパク質の局在性.1:単純な分子間相互作用は線形性を示す入出力関係を示すが,2:正のフィードバック,あるいは,3:足場タンパク質があると,より非線形な応答を示す.
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図4 ERK経路はシステム生物学においてもっとも研究されている系である
時間ダイナミクスおよび用量応答にはともに,さまざまなダイナミクスが報告されている.また,そのダイナミクスを生む理論的な根拠も多く提唱されている.ある一定のパラメーターのもと,正のフィードバックは持続的(時間ダイナミクス),かつ,二値的(用量応答)な応答を示す.また,負のフィードバックは一過性の応答や振動を示すことがある.こういった制御とダイナミクスとの関連は,ERKのみならず,ほかのシグナル伝達系あるいは転写因子の活性化においても共通する点がある.
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ERKの持続的な活性は細胞の制御に大きな影響をあたえる.もっともよく研究されているラットの副腎髄質に由来するPC12細胞図5 ボトムアップ研究からトップダウン研究へ
これからのシステム生物学がむかう方向は,その“予測力”にもとづく,ヒトの健康を対象とした予防医学と切り離せない.ヒトの全ゲノムを用いたシミュレーションと疾病の発症機構の理解に応用されるであろう.また,ネットワークモチーフの細胞の操作への応用も実用化されるであろう.
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