図1 オートファジーの進行の過程
オートファジーが誘導されると,細胞質に隔離膜が出現し,細胞質成分をとりかこみながら膜を伸長させる.最終的に,二重膜構造をもつ小胞,オートファゴソームが形成され,液胞と融合したのち,オートファゴソームの内膜ごとその内容物が分解される.
[Download] [hs_figure id=1&image=/wordpress/wp-content/uploads/2012/09/Ohsumi-1.e005-Fig.1.png&caption=fig1-caption-text]
この出芽酵母におけるオートファジーの発見が,オートファゴソームの形成をつかさどる分子実体の解明を一気に押し進めることになった.この推進の要因は2点に集約される.1つ目に,この時期の出芽酵母の研究は,従来の変異体の分離,遺伝解析といった古典的な遺伝学にくわえ,遺伝子クローニング,逆遺伝学といった分子生物学的な解析の技術基盤が確立していただけでなく,真核生物においてはじめてのゲノムプロジェクトとしてゲノム全塩基配列の解読が精力的になされていて,ゲノム情報の利用が可能になっていた.出芽酵母ゲノムプロジェクトの完了は1997年である.2つ目として,動物細胞におけるオートファジーは電子顕微鏡でしかとらえられなかったのに対し,出芽酵母のオートファジーは液胞酵素の不活性株を用いることで位相差顕微鏡によりオートファジックボディーの蓄積として容易にとらえることができた.
ひきつづいて1993年,大隅らは出芽酵母のオートファジー不全変異体を分離することに成功した図2 オートファゴソームの形成に必須な18個のタンパク質とその機能単位
現在では,18個のタンパク質がオートファゴソームの形成に必須な“Atgタンパク質”として同定されている.これらは4つの機能単位に分類される.ほぼすべてのAtgタンパク質は栄養飢餓状態に応答して液胞の近傍の一点に局在する.この構造体はPASとよばれ,オートファゴソーム形成の場であると考えられている.Atg1,Atg13,Atg17,Atg29,Atg31からなるAtg1キナーゼ複合体は,PASの基部になっている.
PI:ホスファチジルイノシトール,PE:ホスファチジルエタノールアミン,P:リン酸化.
[Download] [hs_figure id=2&image=/wordpress/wp-content/uploads/2012/09/Ohsumi-1.e005-Fig.2.png&caption=fig2-caption-text]
図3 Atg1キナーゼ複合体
富栄養状態ではTorがAtg13をリン酸化することによりオートファジーを抑制している.栄養飢餓状態では高リン酸化型のAtg13は脱リン酸化型に変換され,Atg1のほか,Atg17,Atg29,Atg31とともにAtg1キナーゼ複合体を形成する.Atg1キナーゼ複合体においては,Atg1のリン酸化活性が亢進する.
P:リン酸化.
[Download] [hs_figure id=3&image=/wordpress/wp-content/uploads/2012/09/Ohsumi-1.e005-Fig.3.png&caption=fig3-caption-text]
図4 2つのPI3キナーゼ複合体
PI3キナーゼであるVps34は2つの複合体,すなわち,Vps15,Vps34,Atg6,Atg14からなる複合体Iと,Vps15,Vps34,Atg6,Vps38からなる複合体IIを形成しており,複合体Iはオートファジーに,複合体IIは液胞酵素の輸送に寄与している.
PI:ホスファチジルイノシトール,PI3P:ホスファチジルイノシトール3-リン酸,P:リン酸化.
[Download] [hs_figure id=4&image=/wordpress/wp-content/uploads/2012/09/Ohsumi-1.e005-Fig.4.png&caption=fig4-caption-text]
図5 膜タンパク質Atg9
膜貫通領域をもつ膜タンパク質であるAtg9は細胞質において30〜60 nmの小胞に存在する.栄養飢餓状態に応答して平均3個のAtg9小胞がPASにリクルートされ,オートファゴソーム形成の核として初期段階に機能している.Atg9は最終的にオートファゴソームの外膜に局在する.
[Download] [hs_figure id=5&image=/wordpress/wp-content/uploads/2012/09/Ohsumi-1.e005-Fig.5.png&caption=fig5-caption-text]
図6 2つのユビキチン様結合反応系
(a)Atg8とAtg12のかかわる2つのユビキチン様結合反応系.ユビキチン(Ub)は,E1,E2,E3の3つの酵素により基質と共有結合を形成する.Atg12におけるE1はAtg7,E2はAtg10,基質はAtg5である.Atg12-Atg5結合体はAtg16と複合体を形成する.Atg8はAtg4のシステインプロテアーゼ活性によりC末端にグリシン残基を露出する.Atg8におけるE1はAtg7,E2はAtg3,基質はホスファチジルエタノールアミン(PE)である.Atg12-Atg5結合体によりAtg8のホスファチジルエタノールアミン化が促進される.
(b)Atg8-ホスファチジルエタノールアミン結合体による膜の融合.Atg8-ホスファチジルエタノールアミン結合体のホモ多量体化により膜どうしがつなぎあわされる.この凝集した小胞の膜が,脂質二重層のうち外側の一層のみが融合するヘミフュージョンを誘起する.
[Download] [hs_figure id=6&image=/wordpress/wp-content/uploads/2012/09/Ohsumi-1.e005-Fig.6.png&caption=fig6-caption-text]
1998年,Atg12結合反応系が明らかになった
著者プロフィール
荒木 保弘(Yasuhiro Araki)
略歴:2001年 東京大学大学院薬学系研究科博士課程 修了,同 助手,英国Paterson Institute for Cancer Research研究員,ドイツHeidelberg大学ZMBH研究員,東京工業大学先進研究機構 先進研究員を経て,2011年より東京工業大学フロンティア研究機構 特任助教.
研究テーマ:オートファジー,とくに,オートファゴソーム形成の分子機構.論理的かつ厳密な出芽酵母ならではの研究によりオートファジーを理解したい.
大隅 良典(Yoshinori Ohsumi)
東京工業大学フロンティア研究機構 特任教授.
研究室URL:
http://www.ohsumilab.aro.iri.titech.ac.jp/
? 2012 荒木保弘・大隅良典 Licensed under