図1 質量分析計を用いたプロテオミクスの分類
プロテオミクスの手法は,トップダウンプロテオミクスとボトムアッププロテオミクス(ショットガンプロテオミクス),および,ノンターゲットプロテオミクスとターゲットプロテオミクスに分類される.
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このレビューにおいては,ノンターゲットプロテオミクスおよびターゲットプロテオミクスの原理およびその特徴について解説するとともに,近年,急速に進んだターゲットプロテオミクスの大規模化の動向,さらに,がん代謝の研究への応用について紹介する.
図2 ノンターゲットプロテオミクスおよびターゲットプロテオミクスの原理
(a)ノンターゲットプロテオミクス.発現量の高いタンパク質が同定されやすい.いちどに多くのタンパク質を検出できるが,再現性や定量性は低い.
(b)ターゲットプロテオミクス.いちどに検出されるタンパク質は少ないが,高い定量性および再現性をもつ.
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図3 プロテオミクスにおけるさまざまな定量の技術
(a)スペクトルカウント法.
(b)標識フリー定量法.
(c)
in vivo標識法.
(d)
in vitro標識法.
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図4 多重反応モニタリング法の原理
(a)3連4重極型質量分析計を用い,液体クロマトグラフィーにより分離されたペプチドのなかから特定の質量をもつものだけがQ1を選択的に通過し,Q2において衝突誘起解離法による開裂をうける.生じた断片はさらにQ3により選択され検出器に到達する.Q1およびQ3を通過させるイオンの質量電荷比の組合せをMRMトランジッションとよぶ.
(b)通常,ひとつのペプチドに対し複数のMRMトランジッションを設定する(MRMアッセイとよぶ).おのおののMRMトランジッションはそれぞれクロマトグラムとして検出されるが,MRMアッセイのクロマトグラムが共溶出することを指標として目的とするペプチドのピークを同定する.
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最近では,観測されるすべての(あるいは,一定の質量のレンジの)イオンをまとめてMS/MSスペクトルを取得するデータ非依存的解析(data-independent acquisition:DIA)法とよばれる方法が開発され普及しはじめている図5 iMPAQTの概要
(a)
in vitroにおいて網羅的に合成した組換えタンパク質を用いて,MS/MSスペクトルを取得しデータベースを構築する.得られた情報を用いてMRMメソッドを検証し,精査されたMRMメソッドを蓄積する.精査されたMRMメソッドを用いて実試料における任意のタンパク質の絶対定量を実施する.
(b)iMAPQTデータベースの検索画面.
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実際に,このデータベースを利用したところ,代謝経路に関連する約1000種類の酵素に関するMRMメソッドの設計および最適化は数日で完了し実試料の分析に進むことができた.そこで,すべての代謝酵素を対象とした定量代謝マップの作成に取り組み,ヒトの正常な線維芽細胞において発現する約650種類の代謝酵素の発現絶対量の計測に成功した図6 iMPAQTを用いたがん代謝の全体像の取得
(a)がん原遺伝子の導入によりトランスフォームしたがん細胞においては,正常な細胞に比べて,解糖系に関連する酵素の発現の上昇(すなわち,Warburg効果の実体)が認められた.さらに,核酸合成や脂質合成にむかう経路の酵素の発現の上昇も認められた.
(b)細胞のがん化の影響をうける代謝経路の例として,一炭素回路を示す.
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著者プロフィール
松本 雅記(Masaki Matsumoto)
略歴:1998年 福岡大学大学院理学研究科 修了,同年 九州大学生体防御医学研究所 博士研究員,2007年 同 助教を経て,2009年より同 准教授.
研究テーマ:プロテオミクスに関する技術の開発および応用.
抱負:つねに新しい技術を開発しながら,自らがつくった技術を駆使して新しい生命科学の研究のスタイルを築きたい.生命システムらしさが生まれる原理をタンパク質のダイナミクスから明らかにしたい.
中山 敬一(Keiichi I. Nakayama)
略歴:1990年 順天堂大学大学院医学研究科 修了,米国Washington大学 博士研究員,1995年 日本ロシュ研究所 主幹研究員を経て,1996年より九州大学生体防御医学研究所 教授.
研究テーマ:プロテオミクスを利用した医学の研究.
抱負:仮説駆動型の研究とデータ駆動型の研究とを組み合わせ,真のトランスオミクス研究を用いて生命の駆動の原理や疾患の発症の分子機構を理解したい.とくに,罹患率が高く社会的にも大きな問題であるがんおよび精神疾患に対し,根本的な治療法の開発につなげたい.
研究室URL:
http://www.bioreg.kyushu-u.ac.jp/saibou/index.html
? 2017 松本雅記・中山敬一 Licensed under