図1 大脳皮質における層構造の形成の過程
マウスの胎仔の脳の大脳の冠状断面の模式図.大脳皮質においてもっとも初期に産生されるニューロンは,脳の表面の近くの辺縁帯に存在するCajal-Retzius細胞と,深い位置に局在するサブプレートである.そののち,脳室帯において産生されたニューロンは,脳の表面の側へと移動して辺縁帯の直下で移動をおえ,サブプレートと辺縁帯とのあいだに皮質板を“inside-out”様式で構築する.中間帯は皮質板に出入りする軸索が走行する部位である.発生の中期以降になると,脳室帯のすぐ脳の表面の側に脳室下帯および多極性細胞蓄積帯が同定されるようになる.
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放射状線維にそってロコモーションにより移動してきたニューロンは,その先導突起の先端が脳の表面の直下の辺縁帯(将来の第I層)に到達すると移動様式を変化させる.すなわち,先導突起の先端を辺縁帯に到達させたまま突起を短縮し,細胞体が放射状線維から離れて一気に辺縁帯の直下まで引き上げられ移動をおえると考えられている.この過程はターミナルトランスロケーションとよばれる図2 移動してきたニューロンのReelinによる挙動の制御
(a)Reelinは移動してきたニューロンの終点においてターミナルトランスロケーションを起こすとともに,ニューロンのあいだの接着を一過的に増強する.Reelinが欠損すると大脳皮質におけるニューロンの配置は大きく乱れて全体として逆転する.
(b)ニューロンの移動の途中にReelinを異所的に強制発現させたときに生じる凝集塊の形成の過程.ニューロンとしての産生は,青色,オレンジ色,ピンク色の順に早い.ニューロンはReelinが沈着した領域の周囲で移動をおえるため,遅く産生されたニューロンほどより内側(中心の近く)に配置される.
[Download] [hs_figure id=2&image=/wordpress/wp-content/uploads/2017/07/Nakajima-6.e004-Fig.2.png&caption=fig2-caption-text]
辺縁帯にはいくつかの種類のニューロンが局在するが,その代表的なものがCajal-Retzius細胞とよばれるニューロンである(図3 大脳皮質におけるニューロンのサブタイプの決定の機構に関する2つの考え方
(a)神経幹細胞(神経前駆細胞)細胞の分化能が発生の進行にともない変化することにより,異なるサブタイプのニューロンが産生される.
(b)産生された直後のニューロンはまだサブタイプが最終的に決定されておらず,ニューロンの成熟にともない細胞外環境などの影響により特定のサブタイプのニューロンへと分化する.
[Download] [hs_figure id=3&image=/wordpress/wp-content/uploads/2017/07/Nakajima-6.e004-Fig.3.png&caption=fig3-caption-text]
一方,それぞれのサブタイプのニューロンに特異的に発現しマーカーとしても使われるタンパク質はその多くが転写因子であるが,そのなかにはサブタイプの決定そのものの制御にかかわるものが多く含まれることがわかってきた