図1 細胞死のかかわる発生現象
細胞死は不要な細胞の除去のほか,まわりの細胞へ積極的にはたらきかけることにより発生や再生を制御している.
(a)肢芽形成のときのシグナルセンターにおけるアポトーシス.
(b)アポトーシスを起こした細胞からの因子によるまわりの細胞への影響.プロスタグランジンE
2はまわりの細胞の増殖を促進する.死につつある細胞から放出されるATPはマクロファージを誘引する.
(c)アポトーシスを起こした細胞によるまわりの細胞への張力の発生.
[Download] [hs_figure id=1&image=/wordpress/wp-content/uploads/2012/08/Miura-1.e002-Fig.1.png&caption=fig1-caption-text]
図2 線虫,ショウジョウバエ,哺乳類において保存された細胞死の実行のシグナル経路
カスパーゼ活性化経路がアポトーシス実行の中心的なしくみとして使われている.
Debcl/Buffy:ショウジョウバエBcl-2ファミリー,DTRAF1およびDTRAF2:JNKの活性化にかかわるアダプタータンパク質,DTRAF1は哺乳類のTRAF4,DTRAF2は哺乳類のTRAF6と相同性が高い.HtrA2/OmiおよびSmac/DIABLO:ともに細胞死の刺激に応じミトコンドリアから放出されるタンパク質で,内在性のカスパーゼ阻害タンパク質IAPファミリーの機能を阻害する.
[Download] [hs_figure id=2&image=/wordpress/wp-content/uploads/2012/08/Miura-1.e002-Fig.2.png&caption=fig2-caption-text]
Wangらは,生化学的な手法により哺乳類におけるカスパーゼ活性化の機構を明らかにした.彼らは,HeLa細胞の細胞質画分の抽出液にハムスターの肝臓に由来する核を入れ,dATPをくわえるとカスパーゼ3が活性化されて核の凝縮が起こるという図3 細胞死による発生において生じるノイズの除去
神経の発生において終分化したニューロンは,シナプスをつくる過程の競合により数の制御が起こる.しかし,終分化の以前にも,神経前駆体細胞が分化する段階において分化のエラーを起こす細胞が生じ,そのような細胞は細胞死により選択的に取り除かれている.ショウジョウバエにおける外感覚器の形成の過程においては,2割の神経前駆体細胞が分化に失敗し取り除かれている.線虫では,つくられる細胞の1割以上がプログラム細胞死により除かれるが,その8割が神経系の細胞であることを考えると,同じような発生において生じるノイズの除去機構として,線虫の細胞死があるのかもしれない.脊椎動物では神経回路の形成のときに,NGFに代表される神経栄養因子によりニューロンの数が制御されることが知られている.
[Download] [hs_figure id=3&image=/wordpress/wp-content/uploads/2012/08/Miura-1.e002-Fig.3.png&caption=fig3-caption-text]
図4 細胞競合と代償性増殖
細胞競合と代償性増殖は多細胞生物のみせるフィードバックによる恒常性のみごとな維持機構である.細胞集団のなかに適応度に劣る細胞が生じると,細胞競合によりその細胞は積極的に細胞死を起こす.細胞が死んでいく過程では増殖因子が放出され,まわりの細胞の増殖を助ける.増殖因子を受け取った細胞はまわりの細胞に比べ適応度が増すため,細胞競合がひき起こされうる.このような細胞の相互の適応度の監視機構がはたらくことにより,細胞集団の質が保たれるものと考えられる.
[Download] [hs_figure id=4&image=/wordpress/wp-content/uploads/2012/08/Miura-1.e002-Fig.4.png&caption=fig4-caption-text]
定足数感知(quorum sensing,クオラムセンシング)は細菌においてみつかった現象で,分泌性の化学物質を用いて集団の密度を互いに感知し,化学物質(オートインデューサー)が一定の濃度をこえると一斉にそれに応答した行動をとるというものである.生物発光や病原性タンパク質の産生,細胞死の誘導による細菌集団の質的な管理が,この機構により制御されている