図1 場所細胞と格子細胞
(a)場所細胞は,動物が環境のなかの特定の場所を通り抜けるときにのみ活動する.動物の移動の軌跡を灰色の線で,細胞の発火活動の位置を赤色の点で示す.場所細胞が発火を示す場所(赤色)を場所受容野とよぶ.場所受容野の位置は個々の場所細胞により異なる.
(b)グリッド細胞は,環境のなかの複数の場所で活動し,この場所が正三角形をしきつめた格子の頂点に位置する.
[Download] [hs_figure id=1&image=/wordpress/wp-content/uploads/2015/01/Matsuo-4.e001-Fig.1.png&caption=fig1-caption-text]
場所細胞が発火活動をしめす場所である場所受容野は,場所細胞ごとにさまざまである.たとえば,ある場所細胞は部屋のある角で活動し,別の場所細胞は部屋の中心で活動するというぐあいである.したがって,多数の場所細胞を集めると,場所受容野が動物の歩きまわる環境全体をおおいつくす.そのため,場所細胞の活動を読み取ることにより逆に,動物がいまどこにいるかを予測できる.実際,同時に計測した数十個の場所細胞から10 cm以下の誤差でラットの現在位置を推定できる図2 海馬の構造
(a)ラットの頭部の模式図.
(b)ラットの脳を側方からみた図.海馬および嗅内皮質は,それぞれ左右の大脳半球に1対ずつ存在し,背側-腹側軸の方向に細長い形状をとる.
(c)海馬の水平断面.海馬のCA1野およびCA3野の錐体細胞と歯状回の顆粒細胞は興奮性の投射細胞であり,ほかに,それぞれの領域に多様な介在細胞が存在する.投射経路としては,嗅内皮質→歯状回→CA3野→CA1野とめぐるトリシナプス経路や,嗅内皮質からCA1野に直接入力する皮質-アンモン核経路などがある.
[Download] [hs_figure id=2&image=/wordpress/wp-content/uploads/2015/01/Matsuo-4.e001-Fig.2.png&caption=fig2-caption-text]
場所細胞の活動パターンは外部の環境に応じて動的かつ瞬時に再配置することが知られており,この再配置の様態が領域により異なっている.再配置には,場所受容野が変化する包括的な再配置や,場所受容野は変わらず発火率だけが変化する頻度の再配置がある.環境の形状を正方形から円形へとしだいに変形させたときのCA1野における再配置のようすがくわしく調べられ,形状の変化がわずかなら場所受容野はおおよそ一定に保たれる一方,形状の変化が大きくなると場所受容野が一斉に包括的な再配置を示すことが見い出された図4 新奇の環境における海馬体-嗅内皮質の回路活動のモデル
(a)神経活動のパターンの細胞機構を調べる実験系.正常な脳環境においてシナプス可塑性と神経活動との因果関係を調べるため,海馬のCA1野の一部にのみウイルスベクターを導入し,その部位からマルチユニット記録を用いて神経活動を記録した.
(b)新奇の環境ではCA3野とCA1野との機能的な結合が強まり,CA1野において遅いガンマ波が増強する.それにともない,CA1野の錐体細胞においてシナプス可塑性を介して遅いガンマ波に対する位相固定が強化され,新たな場所細胞の活動がすばやく形成される.
[Download] [hs_figure id=4&image=/wordpress/wp-content/uploads/2015/01/Matsuo-4.e001-Fig.4.png&caption=fig4-caption-text]
動物が新奇の環境を探索するときには遅いガンマ波が一時的に増強し,このガンマ波へのCA1野の錐体細胞の位相固定が強まることがわかった.さらに,位相固定の強いニューロンほど,空間選択性の高い場所細胞の活動を形成した.一方で,CA1野の錐体細胞のシナプス可塑性を阻害すると,遅いガンマ波への位相固定が減弱し,場所細胞の形成も遅れることが明らかになった.こうした結果と,ガンマ波の領域間の同期を考慮すると,空間学習の際の海馬回路の挙動が推定された(