図1 植物の器官の発生における活性化型Mybおよび抑制型Mybのはたらき
増殖している細胞においては,活性化型Mybと抑制型Mybは同じ細胞において同時に活性化して競合することはなく,G2期のあるタイミングにおいて,抑制型Mybから活性化型Mybへとスイッチすると考えられる.活性化型Mybは,それ自体をコードする遺伝子の転写活性化や,標的遺伝子であるM期サイクリンをコードする遺伝子の転写活性化をつうじた二重のフィードバックループにより,正に制御されている.発生の進んだ器官の分化した細胞においては,G2/M期遺伝子の転写抑制の状態が抑制型Mybのはたらきにより維持されている.
CDK:サイクリン依存性キナーゼ,P:リン酸化.
[Download] [hs_figure id=1&image=/wordpress/wp-content/uploads/2016/05/Machida-5.e005-Fig.1.png&caption=fig1-caption-text]
シロイヌナズナにおいてMYB3R1およびMYB3R4の機能が部分的に欠失した変異体では,途切れた細胞壁や多核の細胞が高頻度で出現するなど,不完全な細胞質分裂により生じる典型的な異常が観察された図2 細胞質分裂におけるさまざまなイベント
(a)植物と動物との細胞質分裂の比較.植物においては,フラグモプラストにおいて形成される細胞板の拡大により細胞質が二分される.動物においては,収縮環およびセントラルスピンドルにより外側から内側にむかい細胞がくびれることにより細胞質が二分される.
(b)細胞板の形成におけるフラグモプラストでの微小管の役割と小胞輸送系.フラグモプラストの微小管束にそって,トランスゴルジネットワークあるいは初期エンドソームに由来する小胞が細胞分裂面に輸送され,それが融合して細胞板が形成される.
[Download] [hs_figure id=2&image=/wordpress/wp-content/uploads/2016/05/Machida-5.e005-Fig.2.png&caption=fig2-caption-text]
フラグモプラストにおける微小管束のダイナミクスは細胞板の形成の原動力である.フラグモプラストの形成の開始のしくみは未解明であるが,フラグモプラストの拡大にはオーグミン-γチューブリン複合体による新規な微小管の形成のかかわることが明らかにされた図3 植物の細胞質分裂を制御するNACK-PQR経路
(a)タバコにおけるNACK-PQR経路による細胞質分裂の制御.同様の制御系はシロイヌナズナにも存在する.
(b)細胞質分裂の際のNACK-PQR経路の構成タンパク質の細胞内局在.NACK1およびMAPキナーゼカスケードの構成タンパク質はすべてフラグモプラストの赤道面,すなわち,細胞板の形成部位にリング状に局在する.
(c)M期の進行におけるサイクリン依存性キナーゼ-サイクリンB複合体によるNACK-PQR経路の活性の制御.M期の前期においてNACK1およびNPK1は十分に蓄積しているが,サイクリン依存性キナーゼによるリン酸化によりそれらの相互作用は阻害されNACK-PQR経路は活性化されない.M期の後期になると,サイクリンBが分解されてサイクリン依存性キナーゼの活性が低下し,未同定のホスファターゼによりNACK1およびNPK1は脱リン酸化されてNACK1とNPK1とは直接に結合するようになりNACK-PQR経路は活性化する.
CDK:サイクリン依存性キナーゼ,P:リン酸化.
[Download] [hs_figure id=3&image=/wordpress/wp-content/uploads/2016/05/Machida-5.e005-Fig.3.png&caption=fig3-caption-text]
タバコにおいて,このMAPキナーゼカスケードの最上位に位置するのはMAPキナーゼキナーゼキナーゼであるNPK1であり図4 DREAM複合体の構成タンパク質
(a)ヒトおよびショウジョウバエにおいて生化学的に同定されたDREAM複合体.共通のコア複合体にE2FやMybなどの転写因子が結合している.ヒトにおいては,増殖している細胞と増殖を停止した細胞とで構成タンパク質が異なる.ショウジョウバエにおいては,増殖している細胞においてMybとE2Fが同じ複合体に存在する.
(b)シロイヌナズナにおいて予想されるMyb-E2F複合体.シロイヌナズナには,E2FBおよびMYB3R4を含む活性型のMyb-E2F複合体と,E2FCおよびMYB3R3を含む抑制型のMyb-E2F複合体があり,抑制型のMyb-E2F複合体は発生が進む過程において構成タンパク質が変化する.
[Download] [hs_figure id=4&image=/wordpress/wp-content/uploads/2016/05/Machida-5.e005-Fig.4.png&caption=fig4-caption-text]
植物において,増殖を停止した組織における抑制型Mybの役割は動物のDREAM複合体におけるはたらきを想起させるものであった