図1 緑色植物の系統樹
陸上植物は緑色,緑藻は青色,それらの共通祖先は茶色で示した.薄青色あるいは薄緑色で示した分類群のあいだの系統関係は正確にはわかっていない.
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次世代シークエンサーの普及により短期間かつ低コストでゲノムを解読できるようになると,植物の進化を分子の言葉で説明する研究がさかんになってきた.分子系統解析により植物の詳細な系統関係が明らかにされ,植物の多様性の理解は格段に進んだ.20世紀後半には分子生物学が台頭した.分子生物学のモデル生物にもとめられる重要な要件として,形質転換が可能であること,順遺伝学的および逆遺伝学的な解析が可能なこと,そして,ゲノムが解読されていることがあげられる.これらをすべてみたす植物として,双子葉植物のシロイヌナズナ(図2 ゼニゴケと被子植物の生活環の比較
生活環を減数分裂細胞(青色)を起点として示した.配偶体世代を薄灰色の背景で示す.それ以外は胞子体世代である.* ゼニゴケと被子植物とで共通に起こる胞子の非対称分裂を示す.有性生殖細胞は濃灰色,その核はピンク色で示す.受精により生じた接合子を淡黄色で示す.ピンク色の矢印は栄養成長から有性生殖に転換するタイミングを示す.被子植物の雄性の配偶体世代において起こる2回の細胞分裂に対応するゼニゴケの発生の段階を,黄色の線,青緑色の線,紫色の線で示す.
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以下,ゼニゴケの生活環について解説する.なお,その詳細は文献図3 ゼニゴケの細胞における局在マーカーの例
(a)細胞膜のマーカー発現株におけるCitrineの蛍光像.成熟した無性芽のノッチの付近を示す.
(b)微小管のマーカー発現株におけるCitrineの蛍光像.発芽後1日目の無性芽のノッチの付近を示す.[ ] は前期前微小管束,矢頭は極形成体,Sは紡錘体,Pはフラグモプラストを示す.
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遺伝子の機能の理解において,変異体の表現型の解析から得られる情報は多い.ある遺伝子をみつけたなら,まずはその変異体を得ることを考えるであろう.そのためには,逆遺伝学的なアプローチが欠かせない.パラログの少ないゼニゴケにおいては,単一または少数の遺伝子を破壊するだけで表現型が現われることの多いのが利点であり,それに着目した研究が多い.ゼニゴケにおいて遺伝子の破壊を可能にした最初の手法は,相同組換えを利用した遺伝子ターゲッティングによるノックアウトである図4 ゼニゴケの条件的なノックアウトの概略
(a)条件的なノックアウト株の作出.Cas9および標的となる遺伝子のガイドRNAを発現するCRISPRベクターと,ガイドRNAに耐性をもつ標的となる遺伝子の相補のためのトランス遺伝子(cDNA)を発現するベクターを用いて同時に形質転換を行う.トランス遺伝子を発現するベクターは,グルココルチコイド受容体と融合した部位特異的な組換え酵素Cre(Cre-GR)を熱ショックプロモーターにより発現するカセットも含む.得られた形質転換体から,標的となる遺伝子にゲノム編集の起こった株を選抜して条件的なノックアウト株を作出する.
(b)ノックアウトの誘導.作出した条件的なノックアウト株を生育させ,任意のタイミングで熱ショックおよびデキサメタゾンにより処理することにより,グルココルチコイド受容体と融合した部位特異的な組換え酵素Creの発現および核への移行をひき起こし,標的となる遺伝子の相補のためのトランス遺伝子の欠失を誘導する.欠失の起こった細胞は蛍光タンパク質(tdTomato-NLS)の発現により可視化される.
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著者プロフィール
西浜 竜一(Ryuichi Nishihama)
略歴:1997年 名古屋大学大学院理学研究科にて博士号取得,同年 同 博士研究員,2000年 米国Michigan大学 博士研究員,2001年 米国North Carolina大学 博士研究員,2005年 米国Stanford大学School of Medicineリサーチアソシエイト,2011年 京都大学大学院生命科学研究科 講師を経て,2017年より同 准教授.
研究テーマ:植物の環境に依存的な増殖および発生の制御機構.
抱負:細胞分裂の制御の研究を基軸として,植物の生存戦略を理解したい.
河内 孝之(Takayuki Kohchi)
京都大学大学院生命科学研究科 教授.
研究室URL:
http://www.plantmb.lif.kyoto-u.ac.jp/
? 2018 西浜竜一・河内孝之 Licensed under