図1 雌性配偶体の形成過程
雌性配偶体は,大胞子母細胞の減数分裂,機能的な大胞子の3回の体細胞分裂をへて形成される.中央細胞においてはDNA脱メチル化酵素の遺伝子が発現しており,インプリント遺伝子などを標的とするDNA脱メチル化が起こると考えられている.雄性配偶体と異なり,雌性配偶体のそれぞれの細胞の大量分画はまだ成功していない.しかしながら,遺伝学的な解析ならびに胚乳画分を用いた解析により,中央細胞におけるDNA脱メチル化,24塩基の低分子RNAの産出と卵細胞あるいは胚への移行,標的配列のRdDM機構によるDNAメチル化のモデルが提唱されている.
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中央細胞におけるエピジェネティックな制御の研究の発端となったのは,インプリント遺伝子として図2 シロイヌナズナのFWA遺伝子におけるゲノムインプリンティングの制御機構
雌性配偶体の中央細胞ではインプリント遺伝子である
FWA遺伝子の5’側の領域の反復配列においてDNA脱メチル化が起こり,遺伝子発現が誘導される.雄性配偶体の側では維持型DNAメチル化酵素によりDNAメチル化の情報は維持されている.雌雄とも受精前の情報が受精後の胚乳組織にエピジェネティックに伝達され,母親に由来する対立遺伝子に特異的な遺伝子発現が観察される.なお,卵細胞では
FWA遺伝子の活性化は起こらないため,胚では父親および母親に由来する対立遺伝子はともに発現が抑制されている.
Me:5-メチルシトシン.
[Download] [hs_figure id=2&image=/wordpress/wp-content/uploads/2013/01/Kinoshita-2.e001-Fig.2.png&caption=fig2-caption-text]
図3 植物におけるDNA脱メチル化の機構
DNAメチル化をともなって発現が抑制された状態にある遺伝子が,DNA脱メチル化をともない活性化されて転写されるまでの過程には,まだまだ謎が多い.DMEやROS1などDNA脱メチル化酵素の研究を皮切りに,塩基除去修復機構がDNA脱メチル化の過程では必須であることがわかってきている.また,クロマチンの機能変換も必要であると考えられている.
mC:5-メチルシトシン.
[Download] [hs_figure id=3&image=/wordpress/wp-content/uploads/2013/01/Kinoshita-2.e001-Fig.3.png&caption=fig3-caption-text]
DNA脱メチル化の過程は,このような塩基除去修復機構による5-メチルシトシンの除去のほかにも,DNA脱メチル化配列の認識や決定,クロマチン構造やクロマチン機能の変化,あるいは,ヒストン修飾の変化をともなうことが予想される図4 SSRP1とDEMTERによるDNA脱メチル化と遺伝子の発現誘導のモデル
遺伝学的な解析から,DNAの脱メチル化にはDEMETERを含めた塩基除去修復機構とFACTヒストンシャペロン複合体の構成タンパク質であるSSRP1が必要と考えられる.
ssrp1変異体では,インプリント遺伝子である
FWA遺伝子のDNA脱メチル化が誘導されないため,少なくともDMETERを含む塩基除去修復機構のみではDNA脱メチル化は進行しない.SSRP1によるクロマチンを介した機構が必要と考えられている.
mC:5-メチルシトシン.
[Download] [hs_figure id=4&image=/wordpress/wp-content/uploads/2013/01/Kinoshita-2.e001-Fig.4.png&caption=fig4-caption-text]
図5 雄性配偶体の形成過程
雄性配偶体は,小胞子母細胞の減数分裂ののち,小胞子細胞の2回の体細胞分裂をへて形成される.1回目の分裂では,不等分裂により栄養細胞(花粉管細胞ともよばれる)と雄原細胞を形成する.そののち,2回目の分裂はシロイヌナズナでは花粉の成熟のまえに起こり,雄原細胞のみ分裂して2つの精細胞を形成する.これらの過程では,小胞子細胞の段階でCpHpH配列の低メチル化が観察されており,栄養細胞になるとCpHpH配列のメチル化レベルはふたたび上昇する.精細胞ではCpHpH配列のメチル化のレベルは低く,受精後の胚ではCpHpH配列のメチル化レベルはふたたび上昇するため,父親(花粉)の側のCpHpH配列のメチル化に関してはリプログラミングの存在が示唆されている.
[Download] [hs_figure id=5&image=/wordpress/wp-content/uploads/2013/01/Kinoshita-2.e001-Fig.5.png&caption=fig5-caption-text]