図1 生細胞における転写の検出
生細胞において転写の活性化を測定するためには,イメージングが用いられる.MS2系によりMCPと結合するRNAを,GFPとの融合タンパク質を用いることによりRNAポリメラーゼIIを,Fabなど抗体に由来する蛍光標識プローブによりリン酸化などの翻訳後修飾を可視化することが可能である.
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このMS2系を用いた転写産物の検出により,エンハンサーを介した転写の活性化は断続的に起こることが明らかにされた図2 抗体に由来するプローブによる生細胞における翻訳後修飾のイメージング
翻訳後修飾に特異的な抗体に由来するプローブとしてFabやmintbodyが用いられる.
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翻訳後修飾に特異的な抗体から開発されたプローブとして,抗原結合断片(Fab)および修飾に特異的な細胞内抗体(modification-specific intracellular antibody:mintbody)がある.Fabはほとんどのモノクローナル抗体から調製することができ,かつ,任意の蛍光色素により標識できるという利点があるが,マイクロインジェクションなど物理的な方法により細胞に導入する必要がある.一方,mintbodyは遺伝子にコードされているためDNAトランスフェクションにより簡便に発現させることができる.しかし,細胞において機能的な抗体を発現させることは容易ではなく,ほとんどの場合,タンパク質の折りたたみや安定性に問題が生じ細胞質において凝集体を形成したり分解をうけたりする.これは,抗体はもともと酸化環境の小胞体において合成され,分子内および分子間のS-S結合を形成して細胞外に分泌されるのに対し,mintbodyは還元状態の細胞質において抗体の一部分のみが合成されるものであり,構造の高い安定性がもとめられる.mintbodyの安定性はわずか1アミノ酸残基の置換により大きく影響されることがわかっており,安定な抗体の探索や既存の抗体の改変が検討されている図3 ヒストンのアセチル化と転写の活性化の制御
ヒストンのアセチル化はRNAポリメラーゼIIによる転写の開始から伸長への移行を促進する.
H3K4me3:ヒストンH3のLys4のトリメチル化,H3K9me2:ヒストンH3のLys9のジメチル化,H3K9me3:ヒストンH3のLys9のトリメチル化,H3K27me3:ヒストンH3のLys27のトリメチル化,H3K27ac:ヒストンH3のLys27のアセチル化.
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細胞膜に受容体が存在するペプチド型のホルモンとは異なり,ステロイドホルモンのひとつであるグルココルチコイドは細胞に浸透し転写因子であるグルココルチコイド受容体と直接に結合してすみやかに転写を誘導する.実際,培養細胞のモデル系においては,グルココルチコイドを培地に添加したのち10分程度で転写にまでいたる.しかしながら,転写因子が結合してから,RNAポリメラーゼIIの結合,転写開始,転写伸長のおのおのの過程において,1分〜2分の時間を要していた.とくに,転写の開始から伸長にいたる過程は比較的長かったことから,ヒストンのアセチル化により転写の開始から伸長への移行が促進されることは迅速な転写の誘導において意義があることと思われた.その分子機構としては,ブロモドメインをもちアセチル化したヒストンH3のLys27と直接に結合するBrd4やp300が,転写伸長にはたらく複合体SECと結合することが考えられた.