図1 低電子線照射システム
撮影のときのみ必要な量の電子線が照射できるようにくふうされたシステムである.1)超低倍率で撮影する領域を探す.低倍率ということは,試料の単位面積あたりの電子線の照射量が少ないということである.2)撮影する領域が決まったら,その領域の外でフォーカスを調整する.この領域は試料を破壊してもかまわないので,必要な量の電子線を照射する.3)標的となる領域に電子線を照射する.
[Download] [hs_figure id=1&image=/wordpress/wp-content/uploads/2016/11/Iwasaki-5.e010-Fig.1.png&caption=fig1-caption-text]
クライオ電子顕微鏡においては非晶質層の氷に閉じ込めた試料を観察する.画像を撮影するため電子線を照射すると,そのとたんに試料が動く.その原因について結論は得られていないが,この問題の克服のため詳細な調査が行われている図2 ハイエンドなクライオ電子顕微鏡Titan Krios
1)12個の凍結試料が入るカセットを,2)液体窒素を満たした容器に入れて,3)電子顕微鏡に装填する.あとは観察したい試料の番号をマウスでクリックすればよい.撮影したのちの凍結試料を回収することもできる.本体はエンクロージャーとよばれる箱でおおわれており,温度の変化などが抑えられている.
[Download] [hs_figure id=2&image=/wordpress/wp-content/uploads/2016/11/Iwasaki-5.e010-Fig.2.png&caption=fig2-caption-text]
近原子分解能での解析の主役は,電子直接検出器といっても過言ではない.これまで,ファイバーカップルCCDカメラが記録装置として多く使われてきており,現在も,大部分の研究室はこれを使用している.高分解能での情報の記録媒体としてはフィルムのほうがすぐれているものの,フィルムより効率がよくコンピューターにより制御できるため主役の座を奪ってしまった.しかし,そのしくみから,画像がどうしてもボケてしまう.電子線をシンチレーターにより光子に変換し,これが光ファイバーにより伝達されCCD素子により検出される図3 ファイバーCCDカメラおよび電子直接検出器による情報の記録
(a)ファイバーカップルCCDカメラ.電子をシンチレーターによりいったん光子に変え,光ファイバーをつうじてCCD素子により検出する.シンチレーターによる電子-光子変換の際の拡散によりボケが生じ,光子が光ファイバーを通過する際にシグナルの劣化が起こる.また,読み取りの速度は非常に遅い.
(b)CMOSを使った電子直接検出器.電子-光子変換を利用しないためボケが抑えられ,また,素子ひとつひとつに増幅回路がついているため読み取りの速度が非常に速い.
[Download] [hs_figure id=3&image=/wordpress/wp-content/uploads/2016/11/Iwasaki-5.e010-Fig.3.png&caption=fig3-caption-text]
高速度での撮影が可能になったことにより新しい撮影法が生まれた.動画撮影法である図4 動画撮影法
たとえば,1サブフレームあたり0.2秒で撮影し,これを10秒間にわたり撮影する.これが“ワンショット”である.つぎに,サブフレームのあいだの画像の動きをアラインメントして1枚の画像にする.電子を試料に照射したとたんに微動が起こるため,1枚目のサブフレームは使わないことが多い.
[Download] [hs_figure id=4&image=/wordpress/wp-content/uploads/2016/11/Iwasaki-5.e010-Fig.4.png&caption=fig4-caption-text]
こうしたハードウェアの進歩はわかりやすのだが,ほぼ時期を同じくして,非常にすぐれた解析ソフトウェアが開発されたことは同じく重要である.近原子分解能での解析の速度が飛躍的に改善されて報告が増加しているのも,このRelionというソフトウェアのおかげといってよい図5 ナノディスクに再構成されたTRPV1チャネルの2.95Å分解能での構造
(a)再構成された密度図.緑色は灰色よりも高い閾値で等値表面を表示したもので,タンパク質の部分を反映している.円盤状のナノディスクがよくわかる.
(b)得られた原子モデル.UCSF Chimera(URL:
https://www.cgl.ucsf.edu/chimera/)により表示した.
[Download] [hs_figure id=5&image=/wordpress/wp-content/uploads/2016/11/Iwasaki-5.e010-Fig.5.png&caption=fig5-caption-text]
解析ソフトウェアRelionの登場により,ヘテロな構造(形状)をした粒子の構造解析の道が開けつつある.一方,単粒子再構成法の適応の困難な試料に対しても,クライオ電子線トモグラフィー法図6 クライオ電子線トモグラフィー法およびサブトモグラム平均法によるHIVのGagポリタンパク質のキャプシドドメインとスペーサーペプチド1の分解能3.9Åでの構造
EM-Navigator(URL:
http://pdbj.org/emnavi/?lang=ja)にて提供されているUCSF Chimeraのスクリプトにより表示した.
[Download] [hs_figure id=6&image=/wordpress/wp-content/uploads/2016/11/Iwasaki-5.e010-Fig.6.png&caption=fig6-caption-text]