図1 メンブレントラフィックの概略
メンブレントラフィックは,まず,供与側のオルガネラ膜の一部が“出芽”し,膜がクラスリンなどによりコートされるとともに,その根元がくびりとられることにより輸送小胞が形成される.その際,小胞に移行する膜の成分や内腔の成分の“選別”が行われる.つぎに,コートタンパク質は輸送小胞から解離し(“脱コート”),細胞骨格にそって“輸送”され,標的となるオルガネラに到達する.そののち,標的となる膜へと“繋留”し“融合”することにより,輸送小胞の積み荷は標的のオルガネラへと受け渡される.選別および出芽,脱コート,輸送,繋留,融合の各ステップにおけるRabタンパク質およびそのエフェクタータンパク質(モータータンパク質,繋留タンパク質など)の機能を示す.また,融合の過程においては,輸送小胞に含まれるv-SNARE(vesicle-SNARE)と標的となる膜に存在するt-SNARE(target-SNARE)とがSNARE複合体を形成し,融合を促進する.
[Download] [hs_figure id=1&image=/wordpress/wp-content/uploads/2013/05/Fukuda-2.e006-Fig.1.png&caption=fig1-caption-text]
近年,このメンブレントラフィックにおける普遍的な制御因子として注目をあつめているのがRabタンパク質である.RabファミリーはRasスーパーファミリーに属する低分子量Gタンパク質のなかで最大のファミリーを形成する.ヒトでは66種類のRabタンパク質(GTPaseドメイン以外のドメインをもつ,ほかとはやや異なるRab44やRab45も含む)が報告されており図2 スイッチタンパク質Rabによる小胞輸送の制御機構
Rabタンパク質は,GTPと結合した活性化型と,GDPと結合した不活性化型とのあいだをサイクルする分子スイッチとして機能する.Rabタンパク質の活性化と不活性化は,それぞれ,GEFとGAPにより制御される.1)新規に合成されたRabタンパク質はまずREPと結合し,2)Rab-GGTと相互作用することにより脂質化修飾(ゲラニルゲラニル化)され,3)GEFの作用により活性化されオルガネラ膜に結合する.4)活性化型のRabタンパク質はエフェクタータンパク質をオルガネラ膜にリクルートすることによりメンブレントラフィックを促進する.つぎに,5)活性化型のRabタンパク質はGAPにより不活性化される.6)不活性化型のRabタンパク質はGDIの機能によりオルガネラ膜から引き抜かれるが,7)GDFやGEFの作用により活性化され,ふたたびオルガネラ膜へともどる.
[Download] [hs_figure id=2&image=/wordpress/wp-content/uploads/2013/05/Fukuda-2.e006-Fig.2.png&caption=fig2-caption-text]
図3 細胞におけるRabタンパク質の局在と機能
細胞における複雑なオルガネラネットワークのほとんどすべての局面において,Rabタンパク質は重要な役割を担っている.これらのうち,代表的な過程についてはふれたが,そのほかのものについては文献を参考にされたい
2).
青色の数字は,Rabタンパク質のアイソフォームの番号を表わす.ERC:endocytic recycling compartment,エンドサイトーシスリサイクルコンパートメント.ERGIC:ER-Golgi intermediate compartment,小胞体-ゴルジ体中間区画.
[Download] [hs_figure id=3&image=/wordpress/wp-content/uploads/2013/05/Fukuda-2.e006-Fig.3.png&caption=fig3-caption-text]
そのほかにも,GEFが局所的にRabタンパク質をGTP型に変換して活性化し,GDIとの親和性を低下させることによりその解離を促して,Rabタンパク質を特異的な膜と結合させるとのモデルが提唱されている.たとえば,Rab27AのGEFとして知られるDENN/MADDはRab27Aのメラノソームへの局在を制御しているとの報告や図4 メラノソームの輸送とRab27A
(a)微小管からアクチンフィラメントに受け渡されるメラノソームにはRab27Aが存在し,そのエフェクタータンパク質であるSlac2-aを介しモータータンパク質であるミオシンVaがメラノソームにリクルートされる.そののち,Rab27Aはもうひとつのエフェクタータンパク質であるSlp2-aに結合の相手を変えることにより,メラノソームは細胞膜に繋留される.
(b)Rab27A,Slac2-a,ミオシンVaのいずれかひとつでも機能欠損を起こすと,この三者複合体により制御されるメラノソームのアクチン輸送に異常をきたし,メラノソームは微小管を逆行輸送されることにより核の周辺に凝集する.
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図5 Rabカスケード
(a)繊毛に輸送される輸送小胞がExocyst複合体により繋留される際には,Rab11からRab8への変換(Rab11→Rabin8→Rab8→Exocyst複合体)が起こる.
(b)初期エンドソームが後期エンドソームに分化する際には,Rab5からRab7への変換(Rab5→HOPS複合体→Rab7→Rab5-GAP)が起こる.
[Download] [hs_figure id=5&image=/wordpress/wp-content/uploads/2013/05/Fukuda-2.e006-Fig.5.png&caption=fig5-caption-text]