図1 生化学情報のコードの3つの方式
分子の種類によるidentity code,分子の濃度や活性の時間変化によるtemporal code,分子の濃度や活性の空間的な広がりによるspatial code.
[Download] [hs_figure id=1&image=/wordpress/wp-content/uploads/2013/11/Bito-2.e014-Fig.1.png&caption=fig1-caption-text]
もっとも単純なのはidentity codeで,分子の種類や組合せがひとつの情報を伝えるものである.たとえば,誘引物質や忌避物質などはその分子自体でひとつの情報を表現する.また,DNAからタンパク質が生合成される過程において3つの塩基の配列により1つのアミノ酸を指定する遺伝コードも,順列によるidentity codeと考えることができる.
2つ目はtemporal codeで,分子の濃度や活性の時間的な変化(振幅,期間,周波数など)に情報をコードする方法であり図2 FRETを用いた細胞におけるシグナルの可視化
Ca
2+インジケーターであるCameleonの例.Ca
2+と結合していない状態ではFRET効率は低いが,Ca
2+がカルモジュリンに結合するとそれがM13(ミオシン軽鎖リン酸化酵素のカルモジュリン結合部位を構成する26アミノ酸残基からなる塩基性ペプチド)と結合し,CFPとYFPとのあいだでFRETが起こるようになり蛍光強度の比が変化する.それを測定することによりCa
2+の濃度を定量することができる.
[Download] [hs_figure id=2&image=/wordpress/wp-content/uploads/2013/11/Bito-2.e014-Fig.2.png&caption=fig2-caption-text]
図3 dFOMA法の測定の原理
(a)dFOMA法に用いる2種類のFRETプローブ.ドナーの励起スペクトルを緑色の実線,ドナーの蛍光スペクトルを緑色の点線,アクセプターの蛍光スペクトルを赤色の点線で示す.RSプローブはSapphireをドナー,mCherryをアクセプターとするFRETプローブで,紫色の光で励起されるが緑色の光では励起されない.RYプローブはYFPをドナー,mCherryをアクセプターとするFRETプローブで,緑色の光で励起されるが紫色の光では励起されない.
(b)交互に励起することにより,2つのFRETプローブからのシグナルを分離することができる.
(c)dFOMA法における顕微鏡イメージングのセットアップの例.2波長での励起に対する2波長での測定という測定光学系に,紫外光レーザーによる光融解法を組み合わせている.
[Download] [hs_figure id=3&image=/wordpress/wp-content/uploads/2013/11/Bito-2.e014-Fig.3.png&caption=fig3-caption-text]
図4 dFOMA法によるCa2+/カルモジュリン依存性プロテインキナーゼIIαとカルシニューリンの情報処理の特性の解析
(a)dFOMA法に用いたCa
2+/カルモジュリン依存性プロテインキナーゼIIα(CaMKIIα)およびカルシニューリンのFRETプローブの構造.V:可変ドメイン.
(b)光融解法によるグルタミン酸の刺激の頻度および回数を変化させたときの,Ca
2+/カルモジュリン依存性プロテインキナーゼIIα(青色)およびカルシニューリン(ピンク色)の活性化の経時変化.2つの酵素のあいだで応答性は明らかに異なる.
[Download] [hs_figure id=4&image=/wordpress/wp-content/uploads/2013/11/Bito-2.e014-Fig.4.png&caption=fig4-caption-text]
図5 シナプスにおけるCa2+/カルモジュリン依存性プロテインキナーゼIIαおよびカルシニューリンの活性の同時測定
(a)シナプスは刺激の頻度に応じて,その体積を変化させたり変化させなかったりという意思決定を行う.この生化学的な情報処理の過程にはCa
2+/カルモジュリン依存性プロテインキナーゼIIαおよびカルシニューリンなど,Ca
2+に依存性のある酵素がかかわっている.
(b)異なる頻度の刺激に対し,Ca
2+/カルモジュリン依存性プロテインキナーゼIIαとカルシニューリンは異なる活性化プロファイルを示す.
CaMKIIα:Ca
2+/カルモジュリン依存性プロテインキナーゼIIα.
[Download] [hs_figure id=5&image=/wordpress/wp-content/uploads/2013/11/Bito-2.e014-Fig.5.png&caption=fig5-caption-text]
今後,dFOMA法を用いて,さらに樹状突起のなかでの生化学反応の演算の過程や,シナプスから核へと伝達されていくシグナルの実態が明らかになるものと期待される.