1.3 遺伝子組換えとは

 生物の身体は細胞からなっており、細胞の中には遺伝子があること、遺伝子はDNAという物質でできていること、そしてDNAは4種類の塩基が鎖状に並んだ物質で、ヒトでは約30億の塩基が並んでいることをお話ししました。また、個人個人の遺伝子の違いは、塩基の違いに由来することもお話ししました。
 さて、私はペットとしてサブローという柴犬を飼っています。サブローはイヌのゲノムをもっています。お隣ではブルドッグを飼っています。お隣のブルドッグもイヌのゲノムをもっています。でも柴犬とブルドッグは見たところは大変違います。これは同じイヌのゲノムをもっていても柴犬には柴犬、ブルドッグにはブルドッグに特有の遺伝子のわずかな違い(変異といいます)があるためです。品種改良や育種というのは、みな、遺伝子の変異を利用したものです。遺伝子組換え技術はこのような遺伝子の変異を作るための方法の一つです。
遺伝子組換え技術(組換えDNA技術)を利用した品種改良
 ある生物から有用な遺伝子を取り出してそれを別の生物の遺伝子に組み込むことを「遺伝子組換え」と呼んでいます。また、そのための方法を「遺伝子組換え技術」あるいは「組換えDNA技術」と呼んでいます。遺伝子組換えを行うには、目的とする遺伝子を持つ生物からDNAを取り出し、その中から目的とする遺伝子を切り出します。次に、この遺伝子に、その働きを調節するDNAをつなぎ、この遺伝子を移したい細胞の中に入れます。そして、この遺伝子を含む細胞を生物にまで育てるのです。目的とする遺伝子がうまく働くようにする方法、目的とする遺伝子を細胞に入れる方法、目的とした遺伝子を含む細胞を生物にまで育てる方法には、さまざまな工夫が行われています。
 もともとは、遺伝子組換えとは、母親由来の遺伝子と父親由来の遺伝子の間に組換えが起こることを言っていました。私たちの細胞の中には、母親からきたDNAの鎖と父親からきたDNAの鎖が入っています。細胞が分裂するときにはそれぞれの鎖が2本になり(合計4本の鎖ができます)、それぞれが二つの細胞に入ります。ところが卵や精子ができるときには、特別な分裂をして、合計4本の鎖が4つの細胞に入ります(従って、卵や精子は1本の鎖を持つことになります)。細胞が分裂するときには、DNAの鎖は凝縮して染色体になりますが、母親からきた染色体と父親からきた染色体の間には組換えが起こることが知られており、これを遺伝子組換えと呼んでいました。
交叉
このような組換えが起こると遺伝子の組合せは母親とも父親とも異なるものになるため、遺伝子に多様性が生まれ、それが長期的には進化にもつながったといわれています。遺伝子の組換えは進化の長い歴史の中では、同種の生物の間だけではなく、異種の生物の間でも生じたと考えられています。これは、同じ配列のDNA断片が異なる種からも見つかることによっています。けれど、このようなことはごくまれな事象です。組換えDNA技術はこのようにごくまれにしか起こらない、異なる種の間での遺伝子の組換えを、目的に合わせて意図的に洗練された形で起こす技術なのです。
 なお、遺伝子組換え生物の取扱いについて定めた日本の法律(カルタヘナ法と呼ばれています)では遺伝子組換え生物とは概略下記を指しています。
  • 細胞外で核酸(DNAやRNA)を加工する技術により得られた核酸(またはその複製物)を含む生物で自然界では起きない遺伝子の組合せをもっているもの。
  • 科を超えた生物の細胞融合に由来する生物で、従来の育種では用いられていないもの。
 正確に知りたい方は法律を見て下さいカルタヘナ法および主務省令(外部リンクです。)
 日本の法律はバイオセイフティに関するカルタヘナ議定書と呼ばれれる国際的な取り決めに基づいて作られています バイオセイフティに関するカルタヘナ議定書(外部リンクです。)
2.1 バイオテクノロジーの歴史と安全性