6.6 遺伝子組換え生物の新たな利用分野−バイオレメディエーション

 バイオレメディエーション(Bioremediation)とは、汚染された土壌や地下水を、生物の力を借りて元の状態に修復する(環境修復)技術と定義されています。微生物は生物の死骸をはじめとして、多くの有機物質(炭素を含む化合物)を分解することができるため、米国では1970年代からこのような微生物の力を利用してパイプから漏れた石油を分解して環境を浄化すること等を行っていました。また、重金属を吸収する植物により土壌の重金属汚染を取り除くなどの、植物を用いた汚染修復技術(とくに、ファイトレメディエーションと呼ばれます)の研究も行われています。バイオテクノロジーの発展および土壌や地下水浄化の必要性から、我が国でも近年、バイオレメディエーションが注目されるようになっています。
土壌浄化
 微生物を用いたバイオレメディエーションでは微生物による汚染物質の分解を利用しますので、微生物が分解できない物質の浄化には利用できません。現在、バイオレメディエーションが適用可能な汚染物質としては、ガソリン等の燃料油やその主要成分である、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレン(BTEX)、あるいは多環芳香族炭化水素(PAHs)であるナフタレン、フェナントレン等の石油系炭化水素があります。また、地下水汚染が問題視されている有機溶媒や油洗浄剤(例、トリクロロエチレン(TCE)、パークロロエチレン(PCE)、ジクロロメタン、四塩化炭素等)などについても、バイオレメディエーションの適用が開始されています。一方、塩素のついた芳香族炭化水素(例えばペンタクロロフェノール(PCP)、ポリ塩化ビフェニル(PCB)、ベンゼンヘキサクロライド(BHC)、ダイオキシン等)は微生物による分解を受けにくく、実用段階には至っていませんが、分解微生物に関する研究は精力的に行われています。
 バイオレメディエーションには、もともとその場所にいる分解微生物をその場所の環境条件を整えて増殖させ、分解を促進するバイオスティミュレーション(Biostimulation)法と、分解微生物を大量に培養し、それを汚染場所に導入して分解を促進するバイオオーグメンテーション(Bioaugmentation)法があります。いずれの方法を採用する場合も、微生物の増殖を促すために、必要な栄養素等を汚染場所に供給します。汚染場所にその汚染物質を分解する微生物が存在する場合にはバイオスティミュレーション法が利用できますが、分解微生物が存在しない場合には、分解微生物を外部から導入するバイオオーグメンテーション法を採用することが必須となります。また、その汚染物質を分解する活性を強化する必要がある場合は、遺伝子組換えなどにより分解活性をもつ微生物を育種することが必要になります。現在、PCB、ダイオキシン等を分解することを目的として分解微生物の育種がすすめられています。
 遺伝子組換えにより作られた微生物を用いたバイオレメディエーションは我が国ではまだ実用化されていません。ただ、今後、このような利用も行われるようになることが見込まれます。そのため我が国では1998年に通商産業省(現経済産業省)が遺伝子組換え微生物を屋外の環境に導入して利用する場合の安全性確保のためのガイドラインを「組換えDNA技術工業化指針」の中に定めました。2003年7月にカルタヘナ法が施行されましたので、今後はカルタヘナ法の中で規定されることになります。
 なお、カルタヘナ法は遺伝子組換えを行った生物のみを対象としていますが、遺伝子組換えをおこなっていない自然菌を用いたバイオレメディエーションについても、安全性の確保を目的としたガイドラインが、経済産業省と環境省の共同作業により策定されています。
 微生物を用いたバイオレメディエーションについてもっと詳しく知りたい人は→微生物を用いたバイオレメディエーション
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