5.4 遺伝子組換え食品のリスク評価とリスク管理

 遺伝子組換え食品の安全性審査については、前項で、2003年7月に内閣府に食品安全委員会が設置されたことに伴って、1.リスク評価と2.許可・検査とに分けられたと説明しました。
 これは、2003年7月1日に、食品安全基本法が施行されたことによります。この法律は、食品の安全性の確保に関する施策の策定に当って、基本的な方針としてリスク分析手法を導入しています。すなわち、1.食品健康影響評価(リスク評価)の実施、2.リスク評価にもとづいた施策の策定(リスク管理)を行うことになりました。
我が国の遺伝子組換え生物の規制の仕組み
 また、これらが別々の組織に分担されることも、同法によって規定されました。以前は、日本の食品安全行政では科学的評価と施策策定が一体で行われていましたが、この法律の施行後は、内閣府の食品安全委員会が1.のリスク評価(食品健康影響評価)とそれに基づく施策に関する関係各大臣への勧告および実施状況の監視等を行い、2.の施策の策定(リスク管理)のみを厚生労働省に残したのです。
 これによって、わが国では、厚生労働省に申請された遺伝子組換え食品に係る安全性審査は、次のような過程を通ることになりました。まず、厚生労働省が食品安全委員会に安全性の評価(リスク評価)を諮問します。ついで、食品安全委員会において、専門家が最新の科学的知見に基づいてリスク評価を行います。次に、その評価結果の通知を受けた厚生労働省が認可するかどうかを判定し、認可を決定した場合(リスク管理)には、厚生労働大臣の名前において、安全性に問題のない旨が公表されます。
 このプロセスは何だか面倒くさく思われるかもしれません。しかし、リスク評価とリスク管理は役割が異なっているのです。このことは例えば食品に含まれる汚染物質の基準について考えると良くわかります。例えばお米中に含まれるカドミウムの残留基準を作る場合、まず、カドミウムのリスク評価を行い、生涯摂取し続けても健康に有害な影響を生じないカドミウムの1日あたりの摂取量(耐容1日摂取量といいます)を判定します。これは食品安全委員会の役割です。けれどお米中の基準値を考える場合、日本人が毎日どれくらいお米を食べるか、またお米以外の食品等からカドミウムをどれくらい摂取するかを考えないと、お米中の基準値をどのレベルにしたらよいかは決められません。さらに、お米中のカドミウムのレベルは低いに越したことはないかもしれませんが、あまりに厳しい基準にすると、食用にできるお米の量が不足してしまうかもしれません、このようなことを考えて、お米中の基準値を定めて管理するのは、リスク管理を行う厚生省の役割なのです。
 さらに、われわれは、大きさや性質の異なる様々なリスクに取り囲まれており、現実には、社会の合意に基づき、他のリスクと比較しながら優先順位をつけていかなくてはならない場合もあります。このように、数あるリスクの中から何が優先的に対処すべき重大な問題なのかを、たとえばコストの問題や国際的動向などの諸々の事情に鑑みて見極めていく仕事も、リスク分析の一部であるリスク管理の重要な仕事です。リスク分析、リスク評価、リスク管理について、もっと知りたい人は、「リスク対応の枠組み」を読んでみて下さい。
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