1.はじめに
 組換えDNA植物で新たに発現したタンパク質で、最終食品に含まれる可能性があるものは、いずれもアレルギー誘発性について評価されるべきであり、特定個人が既に感受性を持つ可能性があるかどうか、食品供給において新しいタンパク質がある個人においてアレルギー反応を引き起こす可能性が高いかどうかを考慮すべきである。しかし、新たに発現したタンパク質のヒトへのアレルギー反応の予測において信頼できる決定的な試験法がないので、総合的な個別の手法を用いて評価することが勧められる。単一の判断基準では充分な予測が出来ないために数種類の情報やデータに由来する根拠を考慮すべきである。

2.評価方法
 導入タンパク質の供給源、当該タンパク質と既知のアレルゲンのアミノ酸配列における有意な類似性、構造的特性を調査する。これには酵素分解に対する感受性、熱安定性、酸・酵素処理などが含まれるが、これに限定しない。

3.一次評価
1)タンパク質の供給源の情報
 導入タンパク質の供給源についてのアレルギー情報が得られれば、アレルギー誘発性評価において考慮するべき手段や関連データが明らかになる。これには、スクリーニングを目的とする血清の利用可能性、アレルギー反応の種類、程度、頻度の記載、構造的特徴およびアミノ酸配列、その供給源に由来する既知のアレルギー誘発性タンパク質の物理化学的、免疫学的特性が含まれる。
2)アミノ酸配列相同
 配列相同の比較は、新たに発現したタンパク質がアレルギー誘発性を有するか否かを示唆する情報を得るために、このタンパク質が既知のアレルゲンとどの程度類似しているかを評価することである。配列相同の検索は、新たに発現した全てのタンパク質の構造を全ての既知のアレルゲンと比較する必要がある。FASTAやBLASTPといったさまざまなアルゴリズム(段階的手法)を用いて検査を行い、包括的な構造的類似性を予測する。直線エピトープを示す可能性のある配列を明らかにするために、連続する同一のアミノ酸部分の段階的な検索などの方法を実施することもある。連続アミノ酸検査の規模は偽陰性または偽陽性の結果が生じる可能性を最低限に抑えるために、科学的正当性に基づくべきである。生物学的に意味のある結果を得るには、検証済みの調査や評価方法を選ぶべきである。
 80以上のアミノ酸部分で35%以上の同一性が認められるか、もしくはその他の科学的に正当性な基準がある場合には、新たに発現したタンパク質と既知アレルゲンの間のIgE交差反応の可能性を考慮する。個別の科学的評価を可能にするために新たに発現したタンパク質と既知アレルゲンの間の配列相同比較から得られた情報は全て報告する。
 配列相同研究には限界があり、特に比較においては一般に利用できるデータベースと科学文献に掲げる既知アレルゲンの配列に限定される。IgE抗体と特異的に結合可能な非連続エピトープの検出においても限界が見られる。
 配列相同検査でマイナスの場合、新たに発現したタンパク質は既知のアレルゲンではなく、既知のアレルゲンに対する交差反応性が低い。有意な配列相同がないことを示す結果が得られれば、その他のデータと併せて考慮する。必要ならば、さらに研究を重ねる。配列相同検査でプラスの場合には、新たに発現したタンパク質はアレルギー誘発性を有する可能性が高い。この製品を更に検討する必要があるときには同定されたアレルギー誘発性供給源に対して感作された特異的血清を用いて評価する。
3)ペプシン耐性
 いくつかの食品アレルゲンにおいてペプシン消化に対する耐性が知られており、ペプシン耐性とアレルギー誘発性の間に相関関係がある。よって、適切な条件下でペプシンの存在によって分解に対するタンパク質の耐性が認められれば、新たに発現したタンパク質がアレルギー誘発性を持つかどうかを確認するためにさらに分析を行なう。整合性があり充分に検証されたペプシン分解プロトコールが確立されれば、この方法の有効性が高まろう。しかし、ペプシン耐性がない場合でも、新たに発現したタンパク質が関連アレルゲンである可能性を排除することは出来ない。ペプシン耐性プロトコールの使用を強く勧めるが、他の酵素感受性プロトコールを使用してもよい。

4.特異的血清スクリーニング
 アレルギー誘発性、または既知のアレルゲンとの配列相同が明らかな供給源に由来するタンパク質については、血清が利用できる場合は免疫学的検査における試験を行なう。当該タンパク質の供給源に対するアレルギーが臨床的に検証された特異的血清を用いてin vitro アッセイにおけるタンパク質のIgEクラス抗体との特異的結合を調べることが出来る。この試験における重要点は十分な数の個人から人血清が得られるかどうかである。さらに、血清の質とアッセイの手順を標準化して有効な試験結果を得る必要がある。供給源のアレルギー誘発性が不明で、既知のアレルゲンに対する配列相同を示さないタンパク質については、標的血清スクリーニングが利用できる場合は、これを考慮する。既知のアレルギー誘発性供給源に由来する新たに発現したタンパク質の場合、in vitro の免疫学的検査における陰性結果だけでは充分ではないと考えられる場合があり、皮膚テストや ex vivo プロトコールなど補足的な試験を促すべきである。

5.その他の検討事項
 新たに発現したタンパク質に対する絶対的な曝露と関連する食品加工の影響は、人の健康に対するリスクの可能性に関する総合的な結論に影響を与えよう。このため、適用される加工の種類や最終食品中のタンパク質の存在に対する影響を判断するうえで対象食品の本質を考慮するべきである。
 科学的知識と技術の進歩に伴い、評価方法の一環としての新たに発現したタンパク質のアレルギー誘発性評価において、その他の方法や手段も考慮することが出来る。このような方法は科学的な信頼が得られるものであるべきである。標的血清スクリーニング法や国際血清バンクの開発、動物モデルの開発、新たに発現したタンパク質のT細胞エピトープやアレルゲンに関る構造的モチーフの研究等が挙げられる。