・バイオテクノロジーは、持続可能な発展を達成するための有用な手段として、将来性が認められつつある。しかし、どのような技術でも無秩序に利用されれば、つまり、利用活動の取りまとめや見返りが不適切であれば、環境上の問題を引き起こし、ひいては持続可能な発展の可能性を損なうことにもなりうる。
・このため、持続可能な発展につなげることのできる形でバイオテクノロジーの発展と利用を促進する一方で、予想されるマイナスの影響を低減するために適切な予防措置を講じることが重要である。安全性の要件は予防原則に基づいており、「段階的」原則と「個別的」手法が適切に用いられる。安全性の確保においてもっとも重要な問題の1つが、遺伝子組換え生物の環境への放出に伴うリスクの評価である。
・リスク評価に関する現行の手続きを概観すると、初期から末期までに起こりうる一連の長期的な環境影響のうち、最初の数段階に重点が置かれていることがわかる。しかし、長期的な環境影響の可能性も検討する必要がある。
・本報告書には、起こりうる長期的な環境影響と、その根底にある生態学的な相互作用を検討するための1つの手法が示されている。この手法は、生物間で生じる可能性のある各種の生態学的相互作用とそれに伴う生態学的影響の体系的な調査に基づいており、非組み換え生物の導入例として知られている事例研究が用いられている。
・出発点は、ある特定の導入で観察された生態学的影響の性質を明らかにすることである。このため研究では、これらの影響を、導入された生物の相互作用や表現形質の性質を明らかにすることにより、相互作用を引き起こした遺伝形質まで遡る。
・各事例研究から得られる結論の1つは、どの遺伝形質が相互作用につながったのかを見極めるのがきわめて困難だということである。これは、ある生物の表現形質や生理学的形質の決定にかかわるきわめて複雑な遺伝子のはたらきが、完全には解明されていないためである。
・この手法を遺伝子組換え生物によって起こりうる影響の評価に適用することを考える場合、別の種類の困難が生じてくる可能性がある。この場合、導入される遺伝形質に関しては正確な情報があるものの、他の生物との相互作用に関する影響や、それに伴って生じる長期的な影響を評価する段階に移ろうとする際に壁にぶつかる可能性がある。つまり、遺伝子組換え生物の性質は、改変された形質と同時に既存の形質を、また、遺伝子組換え生物の全般的な形質と同時にその生物を導入しようとする環境も考慮して捉えなければならないということである。
・この手法は、長期的な環境影響の可能性をより正確に評価するために、現行のリスク評価の手続きを強化するのにも利用できる。さらに、遺伝子組換え生物の放出をモニタリングした結果を、経験の蓄積と、長期的な環境影響に関する科学研究の推進のために利用することが重要である。