国際機関による規制の解説

遺伝子組換え生物に関する国際的な規制の仕組みとしては、(1)FAO/WHOおよびCodex委員会によるもの、(2)カルタヘナ議定書に基づくもの、(3)UNEPによるもの、がある。

(1)FAO/WHOおよびCodex委員会によるもの
FAO(国連食糧農業機関)は、世界各国国民の栄養水準及び生活水準の向上、食糧及び農産物の生産及び流通の改善、農村住民の生活条件の改善、の施策を通じ、世界経済の発展及び人類の飢餓からの解放を実現することを目的とする。
WHO(世界保健機関)は、国際保健会議が採択した世界保健憲章によって設立され、すべての人々が可能な最高の健康水準に到達すること(憲章第1条)を目的とする。
この両者の合同で、FAO/WHO合同食品規格計画の実施機関として設立された国際政府間組織が、コーデックス委員会(Codex Alimentarius Commission)である。その目的は、国際食品規格の策定を通じて、消費者の健康を保護するとともに、公正な食品の貿易を確保することにある。
この委員会の下には、課題別の23部会と特別部会、6つの地域調整委員会がおかれている。そのひとつとして、バイオに関しても、1999年に「バイオテクノロジー応用食品特別部会」が設置され、日本がその議長国となり、さらに2004年には、その再設置が決まった。
Codexでは通常、期限を決めずにルール作りの話し合いを始める。そのため、話し合いはいきおい長くなりがちだが、バイオテクノロジー応用食品特別部会は、新たな試みとして、4年という期限を設けて設置され、以下の3つの文書をまとめた。

議長を務めた日本は、4年という異例の速さで、内容的に高い評価を受ける文書を3つもまとめたため、高く評価された。
なお、Codex委員会の規格には、必ず守らなくてはならないという拘束力はないが、従わないと、貿易相手国からWTOに提訴されるおそれがあるため、各国が国内の規格に取り入れている。

(2)UNEPのガイドライン
UNEP(国連環境計画)は、1972年6月、ストックホルムで「かけがいのない地球」を合言葉に開催された国連人間会議において採択された「人間環境宣言」及び「環境国際行動計画」を実施に移すため、同年12月の第27回国連総会決議に基づき設立された機関である。
1992年、リオデジャネイロで開催された国連環境開発会議(UNCED)において、21世紀に持続可能な開発を実現させることを目指す地球規模の行動計画「アジェンダ21」が採択され、その15条において、バイオテクノロジーの安全性に関する国際協力の検討が規定された。その取り組みには、経験の共有、(ガイドラインを効果的に実施するために必要な)能力作り、および安全性の原則に関する国際協定が含まれる。
1995年、このアジェンダ21の実施に貢献するとともに、バイオテクノロジーの安全性確保、エキスパート育成、国際的な情報の交換のための国レベルの能力の確立と維持に関して、各国政府、ならびに政府間、民間部門およびその他の組織・団体を支援することを目的として、 「バイオテクノロジーの安全性に関する国連環境計画(UNEP)国際技術ガイドライン」が定められた。 (UNEP International Technical Guidelines for Safety in Biotechnologyへ)
このガイドラインを早急に完成させることの重要性を強調したのは、1995年11月にジャカルタで行われた生物多様性条約締結国会議の第2回会合である。同会議は、バイオセイフティ議定書の作成および実施の段階において、それを妨げることなく、暫定的な仕組みとして使用できる、また議定書の合意後にそれを補足するものとして使用できるものとして、ガイドラインを早急に完成させるべきとした。

(3)カルタヘナ議定書
カルタヘナ議定書とは、生きている改変された生物(Living Modified Organisms; 以下LMOと略)の国境を越える移動に先立ち、生物多様性の保全及び持続可能な利用へのLMOによる影響を輸入国が事前に評価し、輸入の可否を決定するための手続きなど、国際的な枠組みを定めたものである。
その目的は、「生物多様性の保全及び持続可能な利用に悪影響を及ぼす可能性のある、現代のバイオテクノロジーにより作成された、生きている改変生物(LMO)の安全な移送、取扱い及び利用の分野において、人の健康へのリスクをも考慮し、特に国境を越える移動に焦点をあて、適切な程度の保護レベルの確保に寄与すること」にある。
これにより、原則として、環境放出利用のLMOの輸出入に際しては、事前の通告による同意(AIA)の手続きが必要とされる。また、輸入に際してや国内での最初の放出に先立ってのリスクの評価や、特定されたリスクの管理を確実にするなどの手続きが求められる。さらに、締約国は、LMOの適切な取扱い方法等について必要な措置を講じ、移送されるLMOには、議定書に規定された情報を含んだ文書を添付しなくてはならない。
同議定書は、2003年9月に発効した。日本でも、同年6月、これに対応する国内法である「遺伝子組換え生物等の使用の規制による生物の多様性の確保に関する法律」が公布され、11月に同議定書を締結した。 我が国カルタヘナ法サイト
なお、同議定書は、「生物の多様性に関する条約」(1992年5月に採択、1993年12月に発効)(以下、「生物多様性条約」と略)の枠組みのもとに採択された初めての議定書である。生物多様性条約は、生物の多様性を保全し、その構成要素の持続可能な利用を実現し、遺伝資源の利用から生じる利益を公正かつ衡平に配分することを目的とする。遺伝子組換え生物を使用することは、その生物が1)生態系に侵入して他の野生生物を駆逐したり、2)近縁の野生生物と交雑してその野生生物を減少させたり、3)有害物質などを産生し、周辺の野生生物を減少させたりする結果、周辺の野生生物の種や個体群が縮小し、絶滅するような状況に至らせる恐れがある。このような恐れは、生物多様性条約にいう生物の多様性への著しい悪影響とも考えられることから、カルタヘナ議定書は生物多様性条約のもとに採択されたと思われる。
ただ、このような議定書を定める必要性やその位置づけについては、同条約19条3項において検討事項とされ、ナイロビでの政府間交渉会議において条約テキストの作られた当初から議論が続いていた。それが、1995年7月にマドリードで行われた専門家による特別会議を経て、同年11月のジャカルタでの第2回締約国会議において、生物多様性条約のもとでの議定書の策定が決定された。同時に、国連環境計画(UNEP)が作成を進めていた「バイオテクノロジーの安全性に関する国連環境計画(UNEP)国際技術ガイドライン」を、バイオテクノロジーの安全性確保のための技術指針として位置づけ、LMOの越境移動に焦点を絞り込んだカルタヘナ議定書が完成した後は、それを補足するものとした。また、議定書の開発段階において暫定的な仕組みとして利用するためにも、ガイドラインを早急に完成させることの重要性を確認した。


<その他の参考情報>