第6章  新たな動き

6.1 バイオセイフティーのための国際的取り決め

 2001年1月、生物多様性条約の下で、遺伝子組換え生物が生物多様性に対してもたらすかもしれないリスクに対応するために、国際的な取り決めであるバイオセイフティーに関するカルタヘナ議定書(以下カルタヘナ議定書と略記)が採択されました。
 生物多様性条約は、人類の生産活動とともに地球上の生物種の多様性を守ることを目的とした国際条約で、1992年にブラジルのリオデジャネイロで開かれた環境サミットで起案され、1993年に成立しました。加盟国は180ヶ国以上に上り、日本も加盟国です。ちなみに、米国は生物多様性条約には加盟していません(詳しく知りたい方は生物多様性条約のページへ)。
 生物多様性条約は1.生物多様性の保全、2.生物多様性の持続的利用、3.遺伝資源についての公正で衡平なアクセスと利益配分を主要なテーマとしており、第8条で、遺伝子組換え生物の利用、放出に際しての生物多様性へのリスクを規制、管理、制御するための措置をとるよう、締約国に求めています。また、第19条では、特に「バイオテクノロジーの取扱い及び利益の配分」とする条文を設け、バイオテクノロジー研究への遺伝資源提供国の参加の確保、遺伝資源からの利益の提供国への還元等について締約国の措置を求めるとともに、第3項で、遺伝子組換え生物の移送、取扱い、利用に関する手続きを定めた議定書について検討することを求めています。この生物多様性条約19条第3項の規定を受けて、カルタヘナ議定書が作られました。
 カルタヘナ議定書では、遺伝子組換え生物(LMO)の国境を越える移動に先立って、輸入国がLMOのリスク評価を行い、輸入の可否を決定するための手続きなどについて、国際的な枠組みを定めています。また、各国におけるLMOに対する規制やリスク評価に関する情報を交換するための仕組み(バイオセーフティ・クリアリングハウス)を作成することも定めています(日本のサイトはこちらですhttp://www.bch.biodic.go.jp/)。
 このように、カルタヘナ議定書は、生物多様性に影響を及ぼす可能性のある遺伝子組換え体の国境を越える移動についての取り決めを行うための国際法です(詳しく知りたい人はカルタヘナ議定書のページへ)。ただし、現在の議論は、生物多様性条約本体よりは、遺伝子組換え作物や産業用微生物についての通商条約との関りが濃く、世界貿易機関(WTO)などの別の交渉場所といった感も否定できないところがあるといわれています1
1:関ら 2000. 特集 生物多様性条約とは 生物工学会誌 78(12): 494-510
6.2 我が国の規制における新たな動き