1.2 遺伝子とは

遺伝子組換えの話を始める前に、まず、生物のからだと遺伝子の話からはじめましょう。
 すべての生物の身体は細胞とよばれる小さな部屋からできています。細胞には大きなものも小さなものもあります。例えばスイカの果肉の小さなつぶつぶや、ミカンの房の中の果肉のつぶつぶのように肉眼でみることのできる大きなものもありますが、ほとんどの細胞は肉眼ではみることはできません。
 細胞の中にはその生物がその性質を表して生きていくために不可欠な一揃いの遺伝情報が含まれています。その最小単位をゲノムと呼んでいます。ヒトの細胞にはヒトのゲノムが、ダイズの細胞にはダイズのゲノムが含まれています。そして、細胞が分裂したり子供ができるときに、ゲノムを受けついでいくことによって、それぞれがその生物であり続けているのです。なお、動物や植物ではゲノムは細胞の核の中に入っています。
 ゲノムの本体はDNAと呼ばれる物質です。DNAとはA(アデニン)、T(チミン)、C(シトシン)、G(グアニン)と呼ばれる4種類の構成要素(塩基)がひも状に並んだ化学物質の総称で、ヒトのゲノムの場合は約30億の塩基が一定の順序で並んでいます。ただし、個人個人によって、この約30億個の塩基の並び方にごくわずかな(0.1%程度)違いがあります。そしてこの違いが一人一人の遺伝的な違いを生み出しています。
 ゲノムとよばれるDNAのひも(鎖)の中には、遺伝子や遺伝子の働き方を調節する情報が含まれています。例えばヒトのゲノムには約2万数千個の遺伝子が含まれています。一方、ゲノム中には、現時点では機能が分かっておらず、意味がないと考えられている領域もかなり含まれています。ゲノムの遺伝子領域はタンパク質のアミノ酸の配列を決める情報を含んでいます。具体的には、3つの塩基の配列が1つのアミノ酸に対応しているため、遺伝子のDNAの塩基の並び方によって、タンパク質のアミノ酸の並び方が決まります。
DNAの図
タンパク質は身体の構造を作る材料となる他に、酵素となって細胞の中の化学反応を調節したり、遺伝子の働き方を調節したりする重要な役割をもっています。なお、遺伝子に関する最近の研究から、ヒトのゲノム中でタンパク質のアミノ酸配列を決める情報が含まれている部分は全DNAの1.5%に過ぎないこと、タンパク質の情報を含んでいない遺伝子部分がかなり多いことなどがわかってきています。
 生物の身体を形作る細胞は、父母からの一対のゲノムを含んでいます(まれに、赤血球のようにゲノムを失っている細胞もあります)。けれど、肝臓の細胞は肝臓の働き、目の細胞は目の働きをしています。これは、肝臓では肝臓の働きをするための遺伝子、目では目の働きをするための遺伝子が働いているためです。どの細胞で、いつ、どの遺伝子がどれだけ働くかによって、生物の身体の構造と働きが決まってくるのです。 
1.3 遺伝子組換えとは