入門編Annex わが国における対応の歴史

組換えDNA実験ガイドライン
 我が国では1974年のバーグらによる組換えDNA実験の一時停止の呼びかけに対して、10数人の指導的生物学者が賛同して実験の自粛を行いました。また、1975年2月に開催されたアシロマ会議にも3名が参加しています。その後1976年ごろから学術会議を中心として、研究者内部でガイドライン案の作成等の検討が行われるようになり、1979年2月31日に、文部省から、大学等における組換えDNA実験の安全性確保を目的としたガイドラインが定められました。また、大学以外の研究機関を対象としたガイドラインが1979年8月に「組換えDNA実験指針」として告示されました。当初はNIHガイドラインと同様、かなり厳しいものでしたが、その後、それぞれのガイドラインは10回以上にわたり改定されています。なお、平成13年に文部省と科学技術庁が統合された後、平成14年1月に「組換えDNA実験指針」として統一されました。

産業利用における製造ガイドライン
 組換えDNA技術の産業化の時代を迎え、1986年6月にOECDにおいて、工業分野の産業利用の安全性確保のためのガイドラインが示されました。これを踏まえ、1986年6月、当時の通産省が鉱工業分野に関し「組換えDNA技術工業化指針」を、また、12月には厚生省が医薬品製造につき「組換えDNA技術応用医薬品の製造のための指針」を、さらに1989年には農水省が、農林水産業、食品産業などについて「農林水産分野における組換え体の利用のための指針」を定めました。また、食品分野については、厚生労働省が1991年12月に「組換えDNA技術応用食品・食品添加物の製造指針」および「組換えDNA技術応用食品・食品添加物の安全性評価指針」を定めました。これは遺伝子組換え体そのものを食べるのではなく、遺伝子組換え技術により作られた酵素を食品や食品添加物の製造に用いる場合の製造プロセスおよび製品の安全性確保を意図したものでした。遺伝子組換え体そのものを食べる場合の安全性確保への対応については、5.1 農作物の食品としての安全性を参照してください。

野外利用に関係するガイドライン
 遺伝子組換え生物の野外利用については、1989年に農水省から出された「農林水産分野における組換え体の利用のための指針」の中に安全性確保のためのガイドラインが規定されていました。その後、遺伝子組換え微生物をバイオレメディエーションに用いる場合も考えられるようになり、1998年、通産省の「組換えDNA技術工業化指針」が改定され、鉱工業分野における遺伝子組換え微生物の野外利用の安全性確保のためのガイドラインも示されるようになりました。

バイオセイフティーに関するカルタヘナ議定書への対応
 我が国ではこのように、遺伝子組換え生物の利用の安全性確保はガイドラインの下で図られていました。しかしその後、2000年1月に生物多様性条約の下で世界的な取り決めであるバイオセイフティーに関するカルタヘナ議定書(以下カルタヘナ議定書と略記)が採択され、我が国も国際協調の観点から、国の方針として、この議定書の締約国となることとなりました。そのために、カルタヘナ議定書を実施するため、「遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律(カルタヘナ法)」が2003年6月18日に公布され、2004年2月19日に施行されたのに伴って、それまで運用されてきた関係省のガイドラインは廃止されました。関係する各省は、カルタヘナ法のもと、省令によって、遺伝子組換え生物の安全性確保のために必要な基本条件などを定め、その利用を規制していくことになります。

遺伝子組換え食品の安全性確保への対応
 遺伝子組換え食品の安全性確保については、当初、「組換えDNA技術応用食品・食品添加物の安全性評価指針」の中で、遺伝子組換え体そのものを食さない場合についてのみ、規定されていました。その後、1995年になり、このガイドラインが改定され、遺伝子組換え体そのものを食べる場合をも含むように、拡大されました。しかし、1999年4月、我が国において安全確認が終了していない遺伝子組換えトウモロコシの混入問題が発生したことをきっかけとして、遺伝子組換え食品の安全性確保には法的な対応が必要である、という認識の下に、食品衛生法が改正され、組換えDNA応用食品の安全性についてはガイドラインではなく、食品衛生法の下で確保が図られるようになりました。
 その後、我が国では牛海綿状脳症(いわゆる狂牛病)問題に端を発して、2003年7月、食品安全基本法が施行され、食品安全委員会が設置されました。これに伴って、遺伝子組換え体を食品として利用する場合には、「食品安全基本法」「食品衛生法」に基づいて、内閣府の食品安全委員会がリスク評価を、厚生労働省が承認を行うこととなりました。2004年、食品安全委員会は遺伝子組換え食品のリスク評価に関して「遺伝子組換え食品(種子植物)安全性評価基準」および「遺伝子組換え微生物を利用して製造された添加物の安全性評価基準」を発表しています。
以上に示した主要なガイドライン等を別紙に示します。また、カルタヘナ法が導入される前の我が国における規制の枠組みを図に示します。カルタヘナ法の下での規制の枠組みについては6.1の図を見て下さい。

別紙
I.実験ガイドラインとして、
1979年 「組換えDNA実験指針」(文部省、科学技術庁)
II.施設内での産業利用の指針として、
1986年 「組換えDNA技術工業化指針」(通商産業省)
     「組換えDNA技術応用医薬品の製造のための指針」(厚生省)
III.環境放出利用のガイドラインとして、
1989年 「農林水産分野における組換え体利用のための指針」(農林水産省)
1998年 「組換えDNA技術工業化指針」改訂(自然条件下での利用に適用範囲拡大)
     (通商産業省)
IV.食品等の安全性のガイドラインとして、
1992年 「食品分野への組換えDNA技術応用に関する指針」(厚生省)
1995年 「組換えDNA技術応用食品・食品添加物の安全性評価指針」改訂(組換え種子植物を食する場合に適用範囲拡大)(厚生省)
1996年 「組換え体利用の飼料の安全性評価指針」(農林水産省)
2001年 「組換えDNA技術応用食品・食品添加物の安全性審査基準」改訂(遺伝子組換え食品の安全性審査の義務化)(厚生労働省)
2004年1月29日「遺伝子組換え食品(種子植物)安全性評価基準」(食品安全委員会)
2004年3月25日「遺伝子組換え微生物を利用して製造された添加物の安全性評価基準」(食品安全委員会)
V.バイオセイフティーに関するカルタヘナ議定書への対応
  2003年6月18日 カルタヘナ法公布
  2003年9月11日 カルタヘナ議定書が発効
  2003年11月21日 我が国がカルタヘナ議定書に加盟
  2004年2月19日 我が国に対してカルタヘナ議定書が発効
  2004年2月19日 カルタヘナ法施行
現時点で効力をもっているものを太字で示す。